なんで体って痒くなるの?
Sarina Elmariah氏
マサチューセッツ総合病院皮膚科准教授 人間であれば誰しも100%、生きている間どこかで急な痒みを経験するものですが、慢性的な痒みに悩む人の数を知ると非常に驚くものです。 慢性的な痒みとは、6週間以上にわたって週の大半の日に痒みを感じることと定義されています。一般人口の5~10%、特定の医療集団では最大40%が慢性的な痒みを経験しています。これは本当に深刻な問題です。 なぜ痒くなるかという問いは興味深いですね。皮膚や粘膜の複数の細胞タイプと神経系との間のコミュニケーションに関係しています。大まかに言えば、皮膚の細胞が末梢神経繊維を活性化させるシグナル分子を放出したときに痒みを感じます。この神経繊維が痒みの信号を脊髄に伝え、脳へと送ります。脳内でこれらの化学信号が痒みとして解釈されます。痒みを引き起こす信号を放出できる皮膚細胞には、ケラチノサイトと呼ばれる皮膚を構成する細胞だけでなく、皮膚に存在し、皮膚を守る免疫細胞も含まれます。 時にはこういった細胞が、化学物質、刺激物、植物や昆虫などの外的要因に反応して因子を放出するよう引き起こされるのです。また、湿疹や乾癬のような炎症性皮膚疾患、真菌感染、他の臓器の疾患(肝臓や血液の疾患など)、服用している薬によって放出される内的因子によって引き起こされることもあります。 たまに痒みの神経が損傷したり、病気になったりして、勝手に痒みの感覚を引き起こすこともあります。この種の誤った信号は、皮膚から脊髄、脳に至る神経経路のどこでも起こる可能性があるのです。この場合、発疹がなくても痒みを感じるようになります。
Linda Doan氏
カリフォルニア大学アーバイン校の皮膚病理学ディレクター兼皮膚科助教授。 痒みの神経生物学は複雑で、まだよく理解されていません。そして痒みは痛みと似ています。というのも、両者とも有害な、あるいは不快な刺激と考えられているからです。痛みも痒みも感覚神経によって伝達され、脊髄を通じて脳の様々な部分と通信します。 しかし、それぞれに対する私たちの行動反応は異なります。痛みに対しては、私たちは引っ込む反応をしますが、痒みに対しては、掻くという反応をします。掻きたいという欲求を引き起こす感覚、これが痒みの定義です。 では、何が痒みを引き起こすのでしょうか? 痒みの経路に影響を与えるものは何であっても、痒みの感覚を引き起こす可能性があります。皮膚から脊髄、脳自体に至るまで、どの部分でも起こり得ます。 皮膚科の医者は大まかに痒みを「発疹を伴う痒み」と「発疹を伴わない痒み」のふたつのカテゴリーに分けて考えています。前者はより識別しやすく治療も容易です。蕁麻疹、虫刺され、湿疹、乾癬などの皮膚の問題です。「発疹を伴う痒み」の主な原因は通常、皮膚自体にあるので、その原因を直接対処することができます。 「発疹を伴わない痒み」では、根本的な原因を特定するのがより困難なので、治療も難しい場合があります。このケースでは、感覚神経または中枢神経系自体の問題である可能性があります。また、全身的な問題である可能性もあります。痒みを引き起こす可能性のある全身性疾患には、薬の副作用、甲状腺疾患、腎機能障害、胆道閉塞、そして特定の種類の癌などがあります。 神経に関連する痒みは珍しいものではありません。多発性硬化症は神経系の病気ですが、この病気の患者は皮膚には原因はなく、神経の機能障害によって痒みを経験することがあります。高齢者の掻痒症という現象があります。こらのケースでは皮膚には何も問題がなく、皮膚の神経に加齢に関連する機能障害によって痒みが生じると考えられています。 もうひとつの例は、痒みの感覚につながる脊髄の異常です。たとえば、交通事故で脊椎を傷つけたり、椎間板ヘルニアを発症した場合、脊髄への外傷が感覚神経経路の誤作動を引き起こし、局所的な痒みの感覚につながる可能性があります。神経を圧迫する異常により、神経が不適切に発火し、皮膚のその箇所で実際には神経を刺激するものが何もないにもかかわらず、そこが痒いというメッセージを脳に送ることになります。 痒みというのは、痒みに悩む人の生活に大きなストレスをもたらします。毎晩痒くて眠れないという状況を想像すると過酷ですよね。最近の研究では、慢性的な痒みが不眠、気分障害、思考の乱れ、ストレス、さらには自殺念慮を引き起こす可能性があり、人間関係に深刻な影響を与える可能性があることが明らかになっています。 最後に、興味深い現象として「伝染性の痒み」があります。つまり、誰かが痒がって体を掻いているのを見ると、自分も痒くなり、掻きたくなるというものです。なぜこの現象が起こるかはわかっていませんが、痒みの様々な経路や、脳がそれをどのように処理するかを理解するには、まだまだ多くの研究が必要なようです。
岩田リョウコ