ブラジルに訪れた試練。ネイマール、受難の2試合とケガ克服への長い道のり
文 藤原清美 10月の南米予選2試合は、ネイマール(アル・ヒラル)にとって、非常に厳しいものとなった。 9月には、2月に負った右足首のケガを乗り越えて今年初めて代表に合流、南米予選第1節ボリビア戦で2ゴールを決めて代表での通算ゴール数79に達し、ブラジル代表歴代最多得点記録を塗り替えたばかりだった。
ポップコーンを投げつけられる
今回も「良い試合をして勝つことを、とても楽しみにしているよ。ブラジル代表としてプレーすることは、本当に幸せなことなんだ」と笑顔で語っていた。 10月の1試合目はホームでのべネズエラ戦。3日間しかない練習日のうち、1回は最後の30分間が、開催地クイアバーのサポーターに公開された。多くの声援の中でも、特にスタンド全体のネイマールコールは、繰り返しスタジアムに響き渡った。ネイマールも練習後はビニシウス・ジュニオールやロドリゴ、リシャーリソンらを連れて、サポーターに手を振りながらスタジアムを1周した。 ホテル前でも、チームバスに乗り降りする際に、待ち受けるサポーターと写真を撮ったり、サインをしたりと、ネイマールはいつものように、最も積極的に応対していた。 しかし、試合で事件が起こった。引いて守りを固めるベネズエラの戦い方と、相手GKの数々の好セーブに苦しみながらも、49分にネイマールのCKから、CBガブリエウ・マガリャエンス(アーセナル)がゴール。しかし84分に失点し、1-1で試合を終えた。 スタジアムの大歓声は静まり、一部ではブーイングが起きた。そして、ピッチから選手の入り口付近に帰ってきたネイマールに、スタンドからポップコーンを袋ごと投げつけたサポーターがいたのだ。中身は飛び散り、その袋がネイマールの頭に当たった。 投げたのはただ1人の観客だが、熱烈な歓声をあげていた観衆の中には、選手も1人の人間であることを忘れてしまう人間がいるということだ。非常に衝撃的な瞬間だった。ネイマールは投げた観客に怒鳴ったが、すぐにチームメイトたちに引っ張られて廊下へ入っていった。 試合後、取材エリアに出て来たネイマールは、この一件について静かに、しかし強い言葉で語った。 「すごく悲しいよ。僕はここに一番愛すること、国のためにサッカーをプレーするために来たんだから。僕らはベストを尽くしたけど、時には結果が出ないこともある。それは、サポーターが期待していたこととは違うけど、あのサポーターが投げてきた時には、僕もすごく神経質になった。ああいう態度を、僕は非難するよ。サッカーにとっても、1人の人間である上でも、すごく良くないことだ。彼には教養がないし、自分の子どもにできるだけ良い教養を与えることもできないだろう」 翌日にはクイアバーを去る選手たちを見送りに、多くのサポーターがホテル前に集まった。おそらく出発時間も考慮したのだろう、そのままバスに乗ってしまった選手も多かった中で、ネイマールは足を止めた。前夜のスタジアムで何があろうと、いつもの通り、サポーターに応対するためだ。持って来たボールにサインをしてもらった幼い少年が、感動で大泣きしていた。