【2024世相の鏡①】「闇バイト」元リクルーター 報復恐れ、従い続け有罪 「引き返せなくなった…」
2024年も残りわずか。今年起きた出来事やキーワードを振り返り、現代の世相を映す。 ◇ ◇ 「俺のこと覚えているか」。3年前のある日、大阪に住む男性(26)に1本の電話がかかってきた。元暴力団組員の男とは10代の頃に知り合ったが、男が大麻取締法違反で逮捕されて以来、関係を断っていた。男は男性のせいで刑務所に入れられたと主張。「俺の紹介する仕事で慰謝料を払え」とすごんできた。 仕事とは、特殊詐欺でターゲットから現金や通帳を受け取る「受け子」や現金を引き出す「出し子」。断ろうとすると「嫌なら代わりを紹介しろ」と迫られた。男性は人を誘うだけなら犯罪にならないと思い、知人の女性2人に声をかけた。「封筒を受け取るだけの仕事がある─」。以来、熊本など九州各県で計画された特殊詐欺の実行役を募集、派遣するリクルーターを担うことになった。 交流サイト(SNS)で強盗や詐欺の実行役を募る「闇バイト」。闇バイトを操る犯罪集団は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と呼ばれ、海外を拠点にした「ルフィ」などと名乗る指示役による広域強盗事件は、社会を震撼[しんかん]させた。
熊本県内でも今年11月、SNSで闇バイトを募集したリクルーターとみられる熊本市の10代の姉弟が職業安定法違反の疑いで逮捕された。指定暴力団系組幹部の男も共犯として逮捕され、犯行に反社会的勢力が関与している実態がうかがえる。 SNS上に「ホワイト案件」などと犯罪集団が求人情報を投稿し、応募者に身分証などの個人情報を送らせて、脅迫して犯罪に加担させるのが、闇バイトの特徴だ。 大阪の男性も、恐怖に支配されていた。「男は僕の家に居座り、へまをしたメンバーの処遇について、フィリピンにいる上位者に相談していた。最終的に、メンバーは臓器を売りに海外に連れて行かれたようだ」 男性は報復を恐れ、男の指示に従い続けた。通信アプリで実行役とやりとりしながら送られてきた宿泊代や交通費の領収書の写真を男に転送した。約1カ月後、実行役が九州の各県警に逮捕され、さらに数カ月後、男性は報酬を受け取ることなく熊本県警に捕まった。