消えた補助金9000万円…長崎・南島原サテライトオフィス問題 市側に不可解な動きも
9千万円の「公金」はどこに消えたのか-。長崎県南島原市深江町の道の駅「ひまわり」に企業誘致のための「サテライトオフィス」を整備する事業が頓挫し、市が施工業者に「前払い」した補助金が戻ってきていない。市議会は10月、強い権限を持つ調査特別委員会(百条委員会)を設置して実態解明に乗り出したが、証人の言い分が食い違い、真相は見えないままだ。市民からは「公金が食い物にされたのではないか」といぶかしむ声が上がる。 ◆影も形もなく… 「今振り返れば、補助金9千万円をせしめる計画だった。うまい具合に利用された」 11月20日の百条委。補助金を受け取った福岡市の施工業者「成和」の社長が出頭し、言い放った。そもそも、請負金額500万円以上の工事に必要な建設業許可を持っていないと告白。傍聴席の市民は一様に驚きの表情を浮かべた。 頓挫した事業は、ひまわりを運営していた企業の親会社エバーグリーン(佐世保市)が担当。計画では、ひまわりの施設を改装し、コワーキングスペース、シェアオフィス、スポーツジムなどを備える「サテライト棟」を整備。IT企業などを誘致し、産業振興や雇用創出につなげる狙いだった。 事業は国の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用。昨年7月の着工と9月の完成を見込んでいた。 交付金は通常、事業終了後に支給する。しかしエバーグリーンに資金がないため、同社の要望を受け、南島原市は着工前に補助金9千万円を「概算払い」することにした。だが市は補助金を同社に交付せず、同社から委任を取り付けた上で、施工業者の成和に直接、振り込むという不可解な動きをした。 結局、工事は一部解体作業が実施されただけで、ほとんど着手されなかった。エバーグリーンは今年5月末、事業廃止を届け出た。今「ひまわり」にはサテライトオフィスの影も形もない。そして9千万円の補助金は行方知れずになった。 ◆「1円も入っていない」 南島原市議会が設置した調査特別委員会(百条委員会)では、行方知れずになった補助金の流れがおぼろげに見えてきた。 証言を総合すると、南島原市が福岡市の施工業者「成和」に送金した9千万円のうち、6千万円が下請け業者へ。同市の会社経営者2人にコンサルティング料として計2400万円。同市の設計事務所に500万円が渡ったが、成和に返還された。 成和は600万円を借金返済や生活費に使ったと証言。会社経営者の一人は、成和から預かった金のうち600万円を資産運用に充てていると語った。 成和は、会社経営者の一人が補助金を配分した「首謀者」だと名指しした。だが、この経営者は「(サテライトオフィス事業者の)エバーグリーン側に依頼され、成和を紹介しただけだ」と否定し、証言は食い違った。 南島原市は補助金の返還を求めエバーグリーンを提訴すると決めた。エバーグリーンは成和と工事請負契約を結んでいたが「当社に補助金は1円も入っていない」と主張している。 ■ 「闇が深い」 百条委などを通して浮かび上がったのが、不可解な市の動きだ。 補助金支出の手続きを巡っては、市会計課が適切ではないと疑義を示し、支出処理を一時保留して市商工観光課に再検討を促していた。だが山口周一副市長と同課が協議し、補助金を申請したエバーグリーンの委任を受けて成和に補助金を振り込む「委任払い」の手法を用いることにして、松本政博市長に報告しないまま手続きを進めた。 エバーグリーンに山口副市長が2500万円、市職員が500万円をそれぞれ個人融資していたことも明らかになった。 ひまわりの前身「みずなし本陣ふかえ」は事業不振で2021年に営業を終了し、エバーグリーンの子会社が引き継いで昨年4月に再開した経緯がある。山口副市長は補助金の概算払いや個人融資について「道の駅の再開とサテライト事業の成功は地域活性化や企業誘致につながるとの強い思いがあった」と弁明。補助金の流れは「知らない」と関与を否定した。 百条委は年明けに再開する。6千万円が渡った下請け業者のほか、もう一人の会社経営者を尋問し、来年3月に報告書をまとめる予定だ。 誰がこの案件を主導したのか。補助金は取り戻せるのか。市の責任は-。明らかにすべき点は多い。百条委の議員の一人は「この問題は闇が深い」とため息をついた。