「孫の死は無駄じゃなかった」祖母は泣いた 友を奪った土石流から10年 「人の役に立ちたい」命と向き合い、同級生たちが歩む道
故郷で看護師として働く2人
ともに榑沼さんの同級生だった松原萌香さん(23)=木曽郡木曽町福島=と三石くるみさん(23)=同=は、木曽町の県立木曽病院で看護師として働く。榑沼さんと席が隣同士だった三石さんは「かい君はずっとふざけている明るい子」と振り返る。
「かい君」の犠牲、「涙が止まらなかった」
あの日の夜、松原さんは優しいかい君が犠牲になったと知った。「涙が止まらなかった。(亡くなったという)現実味が増すから励まされるのもいやだった」 しばらくして自身の曽祖母が80代で亡くなった。かい君が人生を終えたのは12歳。「年を取って死ぬのは当たり前ではない。命っていつ終わるか分からない」。命の尊さや重さに触れ、看護師を志すきっかけの一つになった。
三石さんは小学校低学年の頃、いとこの誕生をきっかけに看護師になりたいと思うようになった。10年前は社会体育館に避難。かい君の死を知り、信じられなかった。みんなが落ち込む中、担任に「自分たちが頑張って生きよう」と呼びかけられ、「前に進もうという気持ちになった」。 信州木曽看護専門学校(木曽町)を卒業し、看護師になって2年目。木曽病院の隣には木曽川が流れ、「雨が降ると怖い」。その思いは10年前と変わらないが「何かあったら助ける立場になった。誰かのために動ける人になりたい」。そう心に決めている。
祖母「命は大切なもの、気付いてくれてうれしい」
「海斗がそうさせたわけではないかもしれないけれど、命が一つしかない大切なものと気付いてくれたのがうれしい」。榑沼さんの祖母、沼美智子さん(68)=木曽郡大桑村長野=は2日、同級生が消防士や看護師として活躍していることを喜び、涙を手ぬぐいで抑えた。 この10年間は「生きていくのが大変だったけれど、長いような、あっという間のような気もする」と振り返る。 災害や孫のことが忘れられるのがつらい。「まっすぐ(夢への)道を進むことはなかなかできることではない。海斗がいないのは寂しいけれど、無駄じゃなかった」と同級生たちに感謝した。
2014年7月9日午後5時40分ごろ、木曽郡南木曽町読書の梨子沢を土石流が流れ下り、住宅を押し流すなどした。沢沿いに自宅があった当時中学1年の榑沼海斗さんが巻き込まれて亡くなり、3人が軽傷を負った。町によると、建物被害は43棟で、うち全壊は16棟。