税務署の調査件数が減ったのに追徴税額が増えた「驚きのカラクリ」とは?
所得税の申告漏れによる2023年度の追徴税額が、1398億円と過去最多となった。納税者への訪問を伴う実地調査件数は、新型コロナ禍前と比べてむしろ減少していることを鑑みると、深度ある調査が行われているものと推察される。背景には、国税庁基幹システムへのAI導入による調査対象選定の“効率化”があるといわれ、それに伴って税務当局の調査体制自体も変化しつつあるようだ。(ZEIKENメディアプラス 代表取締役社長 宮口貴志) 【この記事の画像を見る】 ● AIの導入で“効率的”に行われる税務調査 所得税の申告漏れによる2023年度(※1)の追徴税額(※2)が1398億円に上り、現行の統計方式が導入された09年以来過去最多となったことが、先ごろの国税庁の調査(※3)で明らかになった。税務署の訪問を伴う実地調査件数や非違(申告漏れなどの誤り)割合は新型コロナ禍以前の19年度に及ばないものの、追徴税額は同年度と比べて266億円の大幅な増加となった(次ページの表参照)。 調査件数が減って、追徴税額が増える……。もし、あらかじめ多くの追徴税額が見込めそうな案件を抽出し、優先的に時間と労力を掛けて調査できるとしたら、調査する側にとってはこれ以上“効率の良い”話はないだろう。そんなことが、果たして可能なのだろうか――。実は、昨今の税務調査は実際に“効率的”になりつつある。国税庁の基幹システムに、人工知能(AI)を搭載した所得税調査選定システムの導入が進んでいるからだ。 国税局や税務署は、納税者の確定申告内容や過去の調査実績、金融機関や外国政府から入手する情報などが収納されている国税庁の基幹システムにアクセスし、何らかの非違を指摘し得る対象を精査している。 現在は、預貯金などの照会資料もオンライン経由で入手できるため、納税者が口座を開設している、もしくは開設していると思われる金融機関から即座に情報を取得することも可能になった。これら膨大な情報リソースから調査対象を絞り込む過程でAIが活用され、抽出・分析の効率を上げている。 ※1 税務事務年度(2023年7月~24年6月)を指す ※2 本来の納税額に不足があった場合に納める差額に、延滞税や利子税、加算税(無申告や不正申告などに科されるペナルティー)が合算された税額 ※3 令和5事務年度における所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)