税務署の調査件数が減ったのに追徴税額が増えた「驚きのカラクリ」とは?
● 税務調査の形を変えるAIのポテンシャル AIの導入をはじめ、税務当局はあらゆる手段を使って申告漏れ監視体制の強化を図っているわけだが、相続税の場合(第6回参照)と同様、所得税の調査においても「狙われやすい人」はいる。当局が監視に力を入れるのは、次のような人たちだ。 (1)富裕層(有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人など) (2)海外投資を行っている個人 (3)インターネット取引をしている個人 (4)無申告者 (5)消費税の還付申告者 (6)所得税の不正還付を受けた者 国税庁によれば、23年度の「富裕層」(※4)に実施した調査は2407件、うち、申告漏れがあった場合の1件当たりの申告漏れ所得金額は2723万円だった。富裕層を含む同年度全体の1件当たり申告漏れ所得金額は1370万円だったから、約2倍である。追徴税額は707万円で、同じく富裕層を含む同年度全体の1件当たり追徴税額275万円の約2.6倍に上る(※3)。富裕層は、やはり“額が大きい“のである。 「海外投資を行っている個人」は「富裕層」と重なるケースが多い。一定金額以上の国外所有財産に国税当局への報告が義務付けられるなど、資産の保有や移動はルールによって逐一監視されている。その他、フリマサイトでの相当量の取引や仮装通貨取引についても、正しい税務申告が行われているか、常に専任の担当者が監視している。そして、情報がたくさん集まるほどAIの活躍機会は増え、調査対象者の精査が進む。 税務行政にAIの活用が浸透していくことで、最近では、税務調査の実施体制までが変わりつつあるようだ。所得税以外の税目でも、例えば、消費税の調査では、税務署の管轄を超えた調査が実施されているという。 消費税は、通常、物やサービスの取引段階で「売上げに対する消費税額」から「仕入れに対する消費税額」を控除して計算する。申告内容の不正や誤りはこのプロセスを追えば検出できるのだが、こうした、一定の条件から外れた問題のあるデータだけを抽出するような作業こそ、AIが得意とするところである。 問題点の抽出は“AI”が、抽出結果の分析と実地調査は(管轄を超えて)消費税調査に精通した“人”が、それぞれ行う方が格段に効率は上がる。税務当局も人員不足は深刻なだけに、調査効率を上げ得る有効な施策の一つとなっている。AIは、税務調査の形をも変えていくポテンシャルを秘めているのだ。 ※3 令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁) ※4 上記※3は「富裕層」を「有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資等を積極的に行っている個人」としている
宮口貴志