橿原・今井町の蔵にコーヒー香る交流スペース 焙煎工房オーナー「孤独に寄り添う居場所に」
江戸時代に商都として栄え、今も町並みを残す奈良県橿原市の今井町。その一角にある蔵に、コーヒー豆の香ばしい匂いが漂うフリースペースがある。焙煎工房を営むオーナーの洲脇大輔さん(48)は「孤独を抱えた人や地域の人が集まり、皆で食事をする場所にしたい」と話す。(共同通信=古俣友理) 洲脇さんがコーヒーに興味を持ったのは学生時代だ。大学近くのジャズ喫茶に通い、卒業後に大阪府守口市の実家でコーヒー豆の焙煎工房「珈琲の富田屋」を開業した。古民家での生活に憧れ、2015年に町並みが気に入った今井町に移住。自宅で工房を続けた。 22年4月、購入した2階建ての蔵の1階を改装して工房を移転した。フリースペースは同年7月に2階にオープン。平日の午前10時から午後7時まで、入場料100円で誰でも自由に利用できる。奈良県産の木材をふんだんに使用し、利用者などが持ち寄った本を集めた本棚や、自由に料理ができるキッチンが並ぶ。
店のスタッフは障害や病気などがあり、一般企業で働くのが難しい人を採用している。洲脇さんの息子が生まれつき耳が聞こえづらかったことがきっかけだ。スタッフの親から「障害があることで孤立しがちだった娘が生き生きとしてうれしい」と感謝された。本人だけでなく周囲の人も元気づけられると実感した。 2階の改装時にシェアオフィスや民泊施設にすることも頭に浮かんだが、愛読書の「利益の10%を社会に還元」という言葉を思い出し、さまざまな人が集うフリースペースにした。 フリースペースは高齢者も大歓迎だという。今井町で認知症とみられる人を見かけた経験から、地域で孤立しがちな高齢者が他者と交流する場として活用することで、健康寿命を延ばす役に立つと考えた。 収益は少なくとも、孤独を抱える人の居場所づくりに充てたい。洲脇さんは「障害のある人や病気の人から独り暮らしの高齢者まで、町の皆が集い、ご飯を作って食卓を囲む実家のような場所にしたい」と目標を語る。
◎今井町 奈良盆地南部に位置し、江戸時代に商業都市として発展した町。16世紀に一向宗の布教拠点として誕生し、後に浪人や商人が集められて町を形成したとされる。特徴的な構造の町屋が多く現存し、1993年に一部が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。近年では空き家の利活用も進み、カフェや雑貨店ができるなど観光地としてにぎわう。