日本のフェイクニュースの現状(全文1)ファクトチェックが悪影響減の一助に
NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」の理事ら3人が、8日正午から外国人特派員協会で会見を行った。 FIJは、誤った情報の拡散防止のため、日本国内のファクトチェック(事実確認)の推進・普及を目指すことを目的に、元記者や大学教授らが2017年に設立。会見では、理事を務めるジャーナリストの立岩陽一郎氏らが、日本のメディア報道の現状と「フェイクニュース」が存在する時代における情報の正確性について見解を発表した。 <登壇者> 特定非営利活動法人ファクトチェック・イニシアティブ ・理事 立岩陽一郎氏(ジャーナリスト、ニュースのタネ編集長) ・理事 金井啓子氏(近畿大学総合社会学部教授) ・理事兼事務局長 楊井人文氏(一般社団法人日本報道検証機構代表、弁護士)
FIJの金井啓子氏の冒頭発言
金井:皆さま、こんにちは。フェイクニュースという言葉を私が強く意識したのは、今からちょうど1年前でした。2017年1月20日、ワシントンD.C.のナショナル・モールという非常に大きな公園に置かれた大きなスクリーンで、数百メートル先にある連邦議会議事堂で行われていたトランプ大統領の就任 式典を見守っていました。公園にはたくさんの賛成派の人と反対派の人たちがいたんですが、ゆったりと歩き回れるほどの混み具合だったので、さまざまな人たちのお話を聞くことができました。でもそのあとにある2枚の写真が報道され、その写真を見たトランプ大統領や報道官の言葉を聞いて、私は耳を疑いました。 2枚の写真というのは、2009年のオバマ大統領の就任式のときと、それから今回の公園の様子をワシントン・モニュメントのてっぺんから、私の古巣であるロイターのカメラマンが撮影して比較した写真です。新たに政権に就いたトランプ大統領たちは、その写真は虚偽であって、今回、史上最大の人々が集まったと発表していました。写真ではオバマ大統領のときには群衆が黒々と公園を埋め尽くしていたのに比べると、トランプ大統領のときは人が少なめ、公園の地面も見えていました。私は9年前には現場には行けませんでしたが、2枚目の写真は1年前、現場にいた私の実感とぴったり合っていました。 このように私自身が確かに訪れていた場所、しかも私の目の前で起きていた出来事が権力者によってフェイクニュースとして否定されてしまうことに、なんとも言えない不気味さと怖さを感じました。権力者が自分自身に対して批判的な報道機関やジャーナリストのことをフェイクニュース、またはフェイクニュースを発する存在として批判する問題は、日本にいる私たちにとっても対岸の火事とは思えません。 例えば、橋下徹さんが大阪市長だったときに、自分自身に対して批判的な報道を行うことが、ほかの報道機関に比べて多かった新聞社、テレビ局、フリーランスジャーナリストのことを公の場で何度も不勉強、いんちきなどと言って攻撃しました。時に誤報を出してしまうのは、あってはならないこととはいえ、どんな報道機関にも付きものです。ですが、そのことをもって、その報道機関が伝えるニュースが全て虚偽と断じることはできません。