【大人の週末旅】昭和の古民家でいただく、野菜を軸としたコース料理
鬼怒川の伏流水に恵まれた茨城県結城市で、江戸期から続く味噌店と、感性を研ぎ澄ませる和食店をクリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が訪れた。豊かな風土に彩られた日本に存在する、独自の「地方カルチャー」。そんな“ローカルトレジャー”を探す好評連載、今回は結城エリアにフォーカス 【結城へ大人旅】食や文化で感じる日本の魅力(写真)
《EAT》「御料理屋kokyu.(コキュウ)」 口福を誘う季節の“百菜”料理
威風堂々とした佇まいの古民家は昭和初期の築と聞く。店名を記した文字さえも蔦に覆われ、表通りには入口が見当たらない。食事に訪れたのは夕暮れ時、外壁を照らす灯りがなかったら通り過ぎていたことだろう。結城のリサーチの段で、あちらこちらからレコメンドを受けた「御料理屋kokyu.」。早朝からの取材を終え身体はくたくたなはずだったが、一皿ずつ運ばれる健やかな野菜を味わうと、“ここに居るだけ”で自然と笑みがこぼれた。
昼間見てもご覧のとおり、目立つ看板はなく目を凝らすと壁に店名が記されている
中庭に面した玄関、きっぱり白さが際立つ麻の暖簾から、料理と向き合う店主の心意気が立ち込める
前夜の余韻に浸りながら、翌日取材に訪れると建物の全貌が見えてきた。玄関のある建物と渡り廊下で繋がるのは、客席を設えた高床の棟。この地で酒蔵を営んでいた名主の別邸で、なんでも筑波山を愛でるために座敷を廻り廊下で囲み、建物の外には濡れ縁を誂えたとか。約100年も前にコンクリートの基礎を組んで高床式に建てた、いかにも贅沢な造りを成す。 時を超えてなおも美しい古民家に、北條恭司さんと友子さん夫妻が料理店として新たな光を灯したのは2013年のこと。和食店を軸にイタリアンレストランでも経験を重ねた北條恭司さんと、料理宿を営む家に生まれ育った妻の友子さんは、それぞれに食に対する“頑固な愛情”を育んできた。そんな二人が満を持して暖簾を掲げた料理店は、昼は6組、夜はわずか3組だけの完全予約制。野菜を軸としたコース料理を振る舞う。そこには、「真剣に意識を向けないと感じ取ることができないほど、微かな香りや本物の旬を感じていただきたい」という思いが込められている。