核実験を強行 金正恩政権はどこへ向かおうとしているのか
金正恩氏誕生日へ「祝砲」の意味合い
その核実験のタイミングですが、北朝鮮にとって最も政治的にアピール力があり、効果的な時期に行わなければ意味がありません。同時に、体制締め付けという狙いも含まれます。 タイミングと体制締め付けという意味では、金正恩体制を盤石化することが最大の目的といえるでしょう。加えて、今回1月6日に実験を行ったのは、金正恩第1書記の誕生日(1月8日)にあわせた祝砲の意味合いが強いと見られます。 世界的にも例を見ない個人崇拝の国、北朝鮮では、故金日成氏(4月15日)、金正日氏(2月16日)の誕生日を国家的祝日として盛大に祝います。金正恩氏の誕生日(1月8日)は、まだ若いという理由からか、休日になっておらず祝賀イベントも行われませんが、なんらかのかたちで誕生日を祝いながら、金正恩氏の偶像化を進めなければなりません。誕生日の2日前の核実験は、「祝砲」という意味合いが込められているようです。
36年ぶり党大会でアピールする成果に?
また、北朝鮮は2016年5月に36年ぶりの朝鮮労働党大会を控えています。この間、大会を開けなかったのは開くに値する成果がなかったからです。だからこそ、正恩氏の父である金正日総書記も大会を開くことが出来ませんでした。 逆にいえば、大会を開くにはそれ相応の成果、とりわけ経済分野での成果が必要不可欠となってきますが、果たしてそんな成果があるのでしょうか。 90年代中盤に大量の餓死者を出すほど壊滅的状態にあった北朝鮮経済は、確かに相対的によくなり、食料事情も、かなり改善しました。反面、首都・平壌と地方の経済格差は拡大化しています。平壌でさえも一部で停電が多発するほど、エネルギー事情も改善の兆しを見せていません。経済事情の上向きを享受できるのは、まだまだ一部の国民です。 つまり、総合的な経済復興という点では、党大会を開催し、自慢できるほどの成果とはとても言えません。
政治面でいえば、国際関係では八方ふさがりの状態が続いています。北朝鮮が最大のターゲットとする米国との対話は、一向に進む気配をみせていません。南北対話でも、さしたる成果はありません。そればかりか、昨年8月には、地雷爆発をきっかけに、軍事衝突寸前に陥った挙げ句、「遺憾の意」を表明。韓国軍とのチキンレースに敗北しました。 政治的、経済的に北朝鮮が最も依存する中国との関係は、2013年の核実験や親中派の張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑したことにより冷え込んでいます。昨年10月には修復の兆しを見せましたが、その後、関係改善の動きを加速させるはずだったモランボン楽団の公演は当時にドタキャンされ、再度悪化の道へ進んでいます。 このように、全てがうまく進まないなか、若い指導者金正恩氏は、自らの体制が盤石であることを国内外に誇示するためにも、何か大きなことをしなければならない。そこで残された数少ない選択肢の一つが「核実験」だったのです。 金正恩氏にとって、大きなことをしでかして、世界にアピールするという意味で、今回の核実験は大成功だったのかもしれません。反面、北朝鮮の未来、そして金正恩氏の今後という意味では、先行きは一層暗くなったと見るべきです。同様のことは、北朝鮮核問題を解決したい国際社会にも言えます。