男性を遭難へ導いたのは「看板の45度のズレ」だった?プロファイリングで導いた可能性とは
山の中の目印
山中には、木に結び付けられたリボン、岩などにペンキで描かれた丸やバツなど、いろいろな「印」がある。 これらは、誰が付けた印なのか。林業家による印であったり、きのこ狩りに来た一般の方によるもの、もしくは地元の方が「自分たちの目印」として付けたものなど様々である。それを登山道の印だと勘違いし、遭難してしまう人が非常に多い。 もちろん登山道を示す印も多く存在する。それが本当に登山道を示すものなのか、または別の目的で付けられた印なのかをよく見極める必要がある。 登山の際には、山中の目印だけを頼るのでなく、地図を読んで登ってほしい。そして常に「万が一」の可能性を頭に入れて、行動することが大切だ。
T字路の先には
話をMさんに戻そう。先ほどあげた可能性1、2を想定した地上捜索を中心に、稜線へつながる沢や廃道の捜索も実施した。 ただ、地上隊が入るには難しい箇所も多く、ドローンを利用して沢や稜線からの転落の危険性がある箇所の映像を何度も撮り、それを画像解析してMさんを探した。 2ヶ月近く捜索したが、Mさんの発見には至らず、梅雨入りと青葉の時期を迎えた。山は茂った葉で見通しが悪くなって、捜索の継続が難しくなった。 ご家族と話し合い、捜索活動は一度休止して、秋の落葉後に再度捜索を行うこととなった。 「もう、全て見尽くした」と思えるほど、捜索をした。しかし、一ヶ所だけ、どうしても私たちの捜索が間に合わなかった箇所がある。 それは、T字路に付けられたあの看板を信じ、山頂とは反対方面へ向かった場合にたどり着くであろう1本の沢だ。 もし、MさんがT字路の看板がズレていたため、間違った方向の左に進んでしまったとしたら、その先には軽自動車くらいの大きさの岩が目の前に現れたはずだ。この大きな岩を見てMさんはどう思ったのだろう? 「この先には進めないな」と思い、行き止まりだと判断するはずだ。しかしよく見ると、岩を迂回して先に進むことができるようにも思える。その先は急な斜面になり、沢の水源(登山用語では「源頭」という)に突き当たる。 Mさんがこちらに進んでいたとしたら……。そのまま沢へ下っていったであろう。沢に行き着いたMさんは、おそらく滑らないように、滑らないように……濡れた岩や石を掴み、足元を確認しながら慎重に沢沿いを下っていったはずだ。 沢を下っていくと、二段になっている滝がある。そこもドローンで動画を撮っていたが、「沢の中は、現場に行かないと分からない。ここは、実際に行ってみる必要がある」と隊員間で話をしていた所だった。 LiSSでは毎回、それまでの捜索活動の内容を報告書にまとめ、ご家族と管轄の警察に提出するようにしている。警察への情報提供は義務とされているわけではないが、私はこうした情報提供によって私たちの捜索活動への理解を得られるとともに、捜索実施範囲の共有ができると考えている。この時も、これまでの捜索過程と未捜索範囲をまとめた報告書を管轄警察へ郵送した。