逆境を乗り越え、全豪OP予選を突破した日比野菜緒!「ロングラリーを楽しめる」心境になれた2つの要因<SMASH>
もう1つ、今の日比野の安定感を裏付ける要因は、やはり“結婚”という形で公私に通した一本の軸だろう。 女子テニスの世界では、今や出産経験者のトップ選手は珍しくない。他方で日本では、ツアーを転戦する既婚者すら少ないのが現状だ。実は日比野自身も長く、「引退してから結婚」という既成概念にとらわれていたという。 それが「早く引退したい」の思いにつながり、フラストレーションの原因になっていたとも...。 「やはり日本に前例がないということもあり、私も『引退しないと結婚できない。ならば引退したい』という気持ちがすごく強くなっちゃったんです。でも彼は少し特殊な経歴なので、『全然、こういうやり方もあるんじゃない?』と言ってくれたので、結婚に踏み切れました」 日比野の言う「彼」とはもちろん、伴侶の啓孝氏。幼少期から欧米諸国で暮らしてきた彼は、旧態依然的な夫婦感とは無縁だ。 その啓孝氏が提案した「こういうやり方」とは、彼が日比野のツアーに帯同すること。長く日比野の試合を見てきた啓孝氏には、公私ともに、彼にしかできないサポートがある。 今回の予選の試合中にも、日比野がコートサイドに歩み寄り、“コーチ”としてベンチ入りする伴侶に助言を求める場面があった。その時に得られる言葉は、日比野に心の平静を与えてくれるという。 「彼は、メンタル面より戦術面でのアドバイスが多い。私は感情的になることも多いんですが、それを『戦術でこうした方がいいよ』みたいに冷静な意見をくれる。感情に感情で返されるとますます熱くなるので、冷静でいてくれるのはすごく助かっています」 劣勢にあっても、常に次の一手を考え続けることで、精神的に崩れることもなかった。 昨年末に30歳を迎えた日比野は、この全豪が通算24度目の四大大会本戦になる。 「自分は、本戦の舞台に値する選手」との矜持を胸に宿す彼女は、来たる本戦に向け、次のような抱負を口にした。 「今日みたいなロングラリーをしていきたい。上位の選手と当たったとしても、しぶとく自分のラリー力を出していければ、チャンスあると思っている」 その初戦で対戦するのは、第17シードのマルタ・コスチュク(ウクライナ/18位)。新生日比野の現在地を占う上でも、格好の試金石になる。 現地取材・文●内田暁