「偏差値」も「受験勉強」もないフィンランド かつて“世界一”だった国際学力調査・PISAが低迷している理由とは?
■PISAで低迷した理由は? ――2000年、PISAで1位になり、その教育が日本でも注目されたフィンランドですが、2010年代ごろから徐々に落ち、22年は、科学的リテラシー9位、読解力14位、数学的リテラシー20位に。PISAが低迷している理由は? 複合的な要因によるものと現地では分析されています。スマホなどデジタル端末の発展により、子どもたちを取り巻く環境が大きく変化したことや、近年顕著になっている外国につながる子どもたち(移民・難民など)や配慮を必要とする子どもの増加など、教室における子どもたちのニーズが多様化していること、予算的に厳しい中で子どもたち一人ひとりに支援が行き届かなくなっていることなどが指摘されています。こうした子どもたちを取り巻く環境の変化に、学校や教育が対応できていないということです。 ――フィンランドの経済状況が悪化した影響もありますか。 その影響はあると思います。実際、多様なニーズに応えようとしても、財政的に厳しいということがありました。加えて、段階的に進められてきた財政改革により、教育予算における地方自治体の裁量が大きくなっていたことが、自治体間の格差をじわじわと広げることにつながっています。 ――PISAが低迷しだしてから、フィンランドの教育現場で変化はありましたか。 PISAの2003年調査で、日本の順位低迷が話題になった際は、朝読書を奨励したり、授業時間数を増やしたりするなど、「量」へのアプローチが取られました。一方、フィンランドでは、PISAが低迷しはじめた2000年代末ごろから、学習環境が整っているかなど、「質」へのアプローチが多く見られました。 その一例に、学級編成(クラスの人数)の問題があります。フィンランドは学級編成に関する国の基準がありません。そのため、自治体や学校が決定しています。財政状況が厳しくなる中、教育にかかる費用を抑制する手段として、学級編成を大きくして対応する学校や自治体も出てきました。こうした状況を受け、政府は学級編成の規模を縮小させるための補助金を出すなどして、学習環境の保持に努めてきました。 その一方で、PISAの2022年調査の結果公表が、政権交代のタイミングと重なったこともあり、政府の反応は、これまでとは異なっています。国語や算数の授業時間を増やすといった「量」に関する政策がフィンランドでも出てきたことは、注目すべき点でしょう。