英語の授業で多様なアウトプットを叶えるICT活用とは?
ICTを活用した学習の利点のひとつは、子供たちのアウトプットが多様化することである。しかし、教えることが多い授業の中で子供たちがアウトプットをする機会を増やすことはむずかしい。 【画像】東京成徳大学中学・高等学校 英語科教諭 和田一将先生 そこで、コトバンク株式会社と株式会社アルクが2024年7月に開催したセミナー「生徒の『自分らしさ』を引き出す! 多様なアウトプットで思考力・表現力を育てる 一歩先のICT活用術」を紹介しよう。同セミナーには、東京成徳大学中学・高等学校の英語科教諭 和田一将先生が登壇。生徒の自己表現力を育むためのクリエイティブなICT活用術をテーマに、英語科での活用実践や評価方法について語った。 ■ 表現力・思考力を育む前に考えておきたいこと 東京成徳中高は、2017年度にiPadによる1人1台端末を導入しICT活用を開始した。グローバル教育や多様性を重んじる校風の中で、ICTを用いた創造性・表現力を伸ばす教育活動はうまく調和し、Appleの認定校である「Apple Distinguished School」に選ばれている。 和田先生は表現力・思考力を語る前に、「そもそも、時代の変化とともに教室の環境が変わってきている」と述べた。ICT機器が増えた教室は、生徒にとっても、教員にとっても、授業中にできることが広がっていることを意味する。こうした環境を生かすことが生徒の可能性を広げることであり、東京成徳中高においてはiPadを「生徒の学びを豊かにする万能なツール」と捉えていると述べた。教師がICTツールをどのように捉えているかが大事で、それ次第では使い方も、使わせ方も大きく異なるからだ。 また、コロナ禍を経た学校は「何のために学校で学ぶのか」を考えることも、表現力・思考力を育てるうえで大事だと和田先生は語る。教師の話を一方的に聞くだけなら学校に集まらなくともよい。和田先生は自身が訪れたニュージーランドの公立小学校の授業写真を見せながら、子供たちが個別学習に取り組みながらも他者と協力して学んでいること、また子供たちの「Growth Mindset」が表現され掲示された教室環境なども紹介した。 一方で、和田先生は中1で入学した生徒たちの英語力にばらつきがあり、いきなり授業でアウトプットの活動を取り入れるのはむずかしいと話す。そのため、6年間の学びのファーストステップとして英語辞書に付箋を貼っていく学習方法に取り組んでいると語った。「わからない単語はインターネットで検索するとすぐに調べられますが、生徒たちが自律的な学習が行えるよう、ツールの選択肢を広げて環境を整えてあげたい」と話す。 ■ 生徒が自分に向き合いながら、思考力と表現力を伸ばす 和田先生は授業でiPadを使って表現活動をするとき、生徒の「私はこう思う」「私はこう表現したい」という意欲を引き出し、それが自己実現につながることを大切にしていると語る。そのうえで、単元学習と結びつける授業を設計しているそうだ。 たとえば、中2の英語では「後輩ができた」という新しい環境を大いに生かし、動画編集アプリ「Clips」を使って新入生に学校紹介をする英語のスクールガイドビデオを作成した。 ポイントは、動画作成の絵コンテも生徒が描くこと。コマ割りにもこだわって、英語のセリフを書き込んでいく。活動中、生徒は自然と役割分担をして、絵を描き、セリフを考え、英文に翻訳するなど英語の学習に主体的に取り組んだ。和田先生は「動画制作のような表現活動は、英語が苦手な子も参加できる場面が多く授業に楽しく参加できる」と話す。 また、リーディングの文章量が増え始める中2のはじめは、英語嫌いが増える時期でもあるという。和田先生はそうした時期にあえてiPadで4コマまんがの作成を取り入れたりもする。「ピーターラビット」の単元では、気に入った一節をスケッチし、4コマまんがにして英語でプレゼンテーションを行った。 「比較級」の学習では、情報を整理して見やすく伝えるインフォグラフィックに挑戦。プレゼンテーションアプリ「Keynote」を使い、日本とパラオの人口や国旗、森林面積を比較して発表した。デザインを通して自分は何を伝えたいのか、表現を通して生徒たちは自分と向き合った。 このようなアウトプットの活動はどのように評価すればいいのか。和田先生は、独自のルーブリックを用いて、その基準は生徒自身が判断できるようなシンプルな内容を意識しているのだという。 たとえば、スクールガイドビデオのルーブリックではシナリオ・撮影・編集・英語の4項目につき目指すべき「良い」姿を1点ずつ設定。複雑な基準を設けるのではなく、英語であれば「学校の魅力を正しい英語で伝えることができる」とし、特に素晴らしかった点と課題点を明確な言葉でフィードバックしていると話す。それによって、生徒が成長を実感できるというのが理由だ。 ■ ICTや英語をツールとして使いこなし、自らの学びを切り拓く生徒たち 生徒の表現力や思考力の育成、自己実現を叶えるうえで、和田先生は実体験に結び付いた学習の重要さも指摘している。東京成徳中高では、中学2年生で全員が海外留学を体験するほか、さまざまな授業で学ぶ意味を感じられる実体験を取り入れている。 たとえばアプリ制作でコーディングを行う際に、英語のタイピングは必須だ。自分の想いを形にするツールとしての必要性に気付いたとき、英語学習はさらに深まっていく。それは他の教科でも同様で、プログラミングで変数を扱う際に数学の知識が生きてくる。初めて数学を習う中1の授業では、「じゃんけんアプリ」の作成を体験し、変数の概念に触れるのだという。 こうした学びを通して生徒たちは自ら主体的に学ぼうと意識し始め、「教員が機会や環境を用意すると、自分たちの表現したいこと、やりたいことに向かっていく姿も見られる」と和田先生は語る。生徒は呼吸をするようにICTを使いこなし、アウトプットする活動を楽しんでいるというのだ。 学校の授業では学習すべき内容が多く、授業に新しいことを取り入れようと思っても、そんな時間的な余裕がないことはよく指摘される。しかし、和田先生の話からは、思考力・表現力を伸ばすアウトプットは生徒の学ぶ意欲や自律的な学習につながることがわかった。東京成徳中高では同校の教育実践や事例、授業案をまとめたデジタルブックを公開しており、興味のある方は参考にしていただきたい。
こどもとIT,本多 恵