掛布氏が球団でなく阪神電鉄本社と異例契約。なぜ阪神はミスタータイガースをグループ内に残したのか?
阪神OBの掛布雅之氏(64)の阪神電鉄本社との異例契約が27日、ようやく内定した。藤原崇起オーナーら電鉄幹部へのベースボール・アドバイザー的な役職で、肩書については来年にも決定次第、正式発表される。SEA(オーナー付きシニア・エグゼクティブ・アドバイザー)を今季限りで退任していた掛布氏の阪神グループへの残留は極めて異例。水面下で掛布氏は、一度打診を断っていたが、今回は受諾する方向だ。SEA時代よりさらに幅広い野球解説者、タレント、講演などの活動がOKだという。なぜ阪神は掛布氏を異例の契約でグループ内に残したのか?
関西財界がラブコール!
報道が先行して藤原オーナーも本社との異例契約を認める発言をしたものの、ここまで具体的な動きがなかった掛布氏の電鉄本社との異例契約がようやく内定した。古くは、1958年に故・村山実氏が、阪神入団時に、引退後の保証を求め電鉄本社と契約を結んだことがあるが、電鉄本社との契約は、極めて異例で社内調整に時間を要したという。そんなにややこしいのならば、SEA職をそのまま続投させておけばよかったとも思うが、急転、電鉄本社契約という裏技を持ちだした経緯には本社サイドのやんごとなき事情があったようである。 実は、関西財界が掛布氏復帰ラブコールの声を挙げたのだ。 掛布氏は、SEAとして2年間、阪急・阪神ホールディングスと付き合いのある関西の有力企業のトップが来場する際、経験談を交えながら、丁寧な説明、解説を行ってきた。藤原オーナーが、野球に関する質問をされた場合、満足のいく答えを返せないため、掛布氏がサポートしてきた。関西財界トップの人たちは、掛布氏の現役時代を知る世代でもあり、その掛布氏の野球理論、人間性に惚れ、「ミスタータイガース」のファンになった人たちが続出。SEAの任期終了に合わせチームを退団する報道を受けて、「もう掛布さんの話を聞きながら野球を見ることはできないのか」との声が漏れていたという。 阪神は昔から関西財界のトップの意見に影響を受ける体質にある。現在は、阪急阪神ホールディングスの意向が強まっているが、プラスして関西財界の声を無視できない傾向にあり、野球に詳しい財界人の意見は、一種の“圧力団体”的な存在にある。 また球団創設85周年を記念して来年2月に公開予定のドキュメンタリー映画『阪神タイガース THE MOVIE ~猛虎神話集~』のナレーターを掛布氏が務めているが、スポンサー企業に協賛の営業をかけた際にも、「ナレーションを任せるくらいのミスタータイガースをなぜ球団から離されたのですか?」とのクレームもあったという。 加えてファンからも掛布氏退団に際して「なぜ辞めさせた?」との多くの批判的意見がSNSなどを通じて発信され、それは本社首脳の耳にも届いていた。ファンや財界からの掛布氏復帰のラブコールを藤原オーナーも無視できなかったわけである。 だが、当初、電鉄本社は、掛布氏を、その財界との“接待”にだけ使おうと画策した。しかし、掛布氏サイドは、一度、その申し入れを断っていた。掛布氏が、OB会長でもしているのなら、まだわかるが、阪神を退団して、なんの役職もなく、ただのOBとなった人間を“男芸者”に使おうとするのもずいぶんと失礼な話である。 甘く考えていた電鉄サイドも、掛布氏の態度硬化を受けてオファーの仕方を再検討。もう一度、球団に戻すわけにもいかず、今回、電鉄本社が肩書を与えての異例の契約を結ぶに至ったようである。「ミスタータイガース」を手元に置くことで関西財界をも含めた熱狂的なファンを納得させようというわけである。 その肩書については現在、球団と本社で調整中。正式名称が決定次第、1月中にも正式発表、掛布氏が本社に出向き契約を結ぶことになる。またSEA時代は、解説を含む他の活動に制限が加えられていたが、今回は、その足枷を外し、ほぼ自由に解説、評論、タレント活動などが認められることになる。