「スパイ天国」日本、諜報活動の実態とは 『背乗り』著者・竹内明氏に聞く
――小説のモデルとなった具体的な事件や、きっかけはありますか? 一番最初、きっかけになったのが、あるロシアのスパイ事件を捜査していた人が、どうも自分たちが捜査している内容がロシアの情報機関に漏れているんじゃないかと。自分たちが、まあ捜索なり逮捕なりの着手をしようとする直前になると、相手のロシアのスパイたちが帰国するということが相次いだ事件、ことがありましてですね。そのときにどうも、内部にモグラが居るというふうに、あるスパイハンターの1人が言い出しまして。私はそのモグラが誰なのか、当然突き止めるすべはないんですけれども、そういった公安部内部の仲間すら疑うというその疑心暗鬼の世界、仲間から情報が漏れている、敵に情報が漏れているんじゃないかというような、その世界を、なんか描けないかなと思ったのがきっかけだったんですよね。 ――タイトル『背乗り』の意味は? これは、外国の諜報員が諜報対象国の一般市民の身分を乗り換わって、市民生活を装いながら諜報活動をするという意味なんですけれども、実際にこういう事件っていうのは過去、北朝鮮、そしてロシアの諜報員によって日本でも起きてまして。実際には、一番最近で言うと、90年代末に摘発された黒羽事件っていうのがありましてですね。これはロシアの諜報員、これ、顔は朝鮮系ロシア人だったんですけれども、その人物が黒羽一郎という人物になりすまして日本国内で日本人の奥さんと結婚して、ごく普通の夫婦を装いながら諜報活動をしていたという事件が摘発されたことがあったんですよね。 それで、この背乗りっていうものの恐ろしさ。外国人の諜報員がもう、そこら辺に住んで、普通に日本人のふりをしながら諜報活動をしている。そういう世界も描けたら面白いなというふうに思って、この背乗りをテーマに選んだんですよね。
――日本でもスパイ活動、諜報活動は行われているのでしょうか? 日本というのは、昔からスパイ天国と言われるんですけれども、スパイに対して非常に意識の甘い国なんですよね。それで、実際に私もそういった海外からやってくる情報機関の人たちに話を聞くこともあるんですけれども、日本は経済大国ですから、産業スパイもいますし、あと、自衛隊の情報を取りたいスパイもいる。外交も、日米同盟として非常に強固な同盟を持ってますんで、日本を経由してアメリカのミリタリーの情報を取るとか、そういった情報の宝庫なんですよね。そういう意味では日本ではスパイ活動っていうのは非常に活発に行われてますね。 ――竹内さんご自身も、長らく公安捜査の取材に関わっていられて、実際にご自身が尾行されたり、脅されたりとか、小説の中の主人公のように事件に関わってしまいそうになったことはありますか? 竹内:脅されたりというのはないんですが、実際に尾行されるっていうのはそんなに珍しいことじゃなくてですね。これまでノンフィクションを出したあとも、あと、実際に、僕は警視庁の公安部の担当記者をやってたこともあるんですけれども、そのときにもなんらかの独自情報を出したあとというのは、その人のネタ元が誰なのかというのは調べられるんですよね。そのときに一番代表的なやり方が、後ろを付ける。つまり追尾。尾行とも言うんですけれども、そういうやり方をされたことは実際にあります。