岡村靖幸「吉川晃司、尾崎豊と知り合えたことは幸福だった」。対談集『幸福への道』で語った“人と会う情熱”【インタビュー】
お酒でみっともない姿をさらせることも幸せ
――神田さんとの対談では、岡村さんが「お酒で惨めったらしい気分になって生まれる音楽がある」というお話をされていたのが印象的でした。僕は岡村さんの“Lion Heart”にある「今日はどんなお酒でも酔えないよ」という歌詞は、まさにそういう感覚なのかなと思いました。 もしかしたらそうなのかもしれないですね。 ――でも、お酒を飲んで惨めな気持ちになって曲を書くことと、一般的な幸福は、イメージが結構遠いような気がします。 かもしれませんね。でも、お酒を飲んで酔えるとか、お酒飲んで憂さを晴らせるとか、お酒を飲んで、普段は言えない恥ずかしいことを言えること自体が、格好は良くないですけど、健康じゃないとできないことですからね。友達がいないと憂さを晴らすような話もできないし。本当に不幸な状態は、お酒さえも飲めないとか、お酒を飲んでも一緒に憂さを晴らせる友達がいないことであって。惨めったらしい姿をさらしても、お酒や友達に甘えられること自体、幸福なんだと思いますね。 ――ちなみに岡村さんは、ここ数年お酒を飲み始めたそうですが、それまではお酒に興味がなかったんですか? お酒、あんまり美味しいと思わなかったんですよ。 ――今は、美味しいから飲まれているんですか? 今は美味しいですね。それにお酒って、コミュニケーションツールとしては最強ですから。対談をきっかけに仲良くなった人も何人かいて、その後、お酒の場で会うようにもなって。するとやっぱり、お酒がお互いの心をほぐすから、もっと深い話ができたり、もっと惨めったらしいエピソードが聞けたりするのが、楽しいものですよね。それを話すこと自体に、自分自身の浄化作用もありますしね。
40年前、人と会うことはもっと情熱的だった
――吉川晃司さんとの対談で語られていた、尾崎豊さんとの3人のエピソードはとても素敵で、それを語るおふたりは幸せそうでした。 そうですね。吉川さんと出会ったのは19歳か20歳ぐらいですから、40年近い付き合いになるわけですね。40年近くこの世界でサバイブしてる彼を本当に誇らしく思います。今も第一線で大河ドラマに出たり、文春が彼との対談をしてほしいと思うような人物であることも、40年来の友人として誇らしいです。 ――今、振り返ると、3人で遊んでいた頃は幸せだったと思いますか? 振り返ってみて幸せだったかどうかはわからないけど、いい人たちと出会えたなと思いますね。今、言ったように吉川晃司さんは今でも活躍なさってるし、尾崎豊さんは未だにリスナーに愛されているし、そういう人たちと知り合えたことは幸運だし、幸福だと思いますね。 ――仲が良かったというのは有名な話ですが、3人の写真が残っていなくて。そのエピソードが、思い出の中だけに残っているのも尊いなと感じます。 当時はiPhoneもなかったし、カメラを持ち歩くわけでもないですから。ぱっと写真を撮ろう、みたいな時代ではなくて。留守電さえなかったですからね。 ――それでも毎晩、会えたわけですよね。当時はいい時代だったな、という感覚もありますか? 今のようなネットが普及した情報過多社会に比べると、当時は、人と会うことに非常に喜びを感じていましたよね。人と会うことや、本やテレビ、ラジオからしか情報を得られなかったので、人と会う時は、本当に真剣に会っていたと思います。いつ会えなくなるかわからないから、一期一会感もすごくあったし。若い方は知らないと思うんですけど、駅に掲示板があったんですよね。当時、携帯がないので、カップルが待ち合わせで会えなくて連絡が取れなくなると、「何時にどこで待ってる」って掲示板に書き残したりして。当時の人と会う時の情熱っていうのは、やっぱり、今の感覚とは違う気がしますね。 取材=金沢俊吾、文=川辺美希、撮影=杉山拓也(文藝春秋)