「格ゲーみたいにしたい」…会長のひと言で ニコ生担当者が明かす将棋の“AI評価値”秘話
「コンピューターより羽生さんが強い」
第2回将棋電王戦は結局、コンピューターチームが3勝1敗1分と現役棋士を相手に勝ち越して幕を閉じた。 だが社会の空気は、それで直ちに「コンピューターが人間より強い」とはなっていなかった。 「世の中の声としては、まだまだ人間の方が強いんじゃないか、羽生(善治)さんのほうが強いんじゃないかみたいな声も多数ありました。そういう中で、人間同士の対局でAIの評価値が出てくることに違和感がある人は絶対にいたと思うんです」 一方で、将棋電王戦中継でのAI評価値が好評だったのも事実だった。 ニコ生ではその後もコンピューターソフト同士の対局を企画し、その中継を通じて評価値表示を浸透させていった。 やがて視聴者からは「(棋士同士の)タイトル戦でも評価値を出してほしい」という声が届くようになった。
2013年10月からの第26期竜王戦七番勝負を前に、月田は主催者である読売新聞社に中継番組での評価値表示を打診し、承諾を得た。 そして記事冒頭でも紹介した通り、竜王・渡辺明に時の名人である森内俊之が挑むという大勝負で、中継画面上に評価値とバーが表示されることとなったのである。 月田が振り返る。 「(反応は)ポジティブだったと思いますね。解説の棋士の方も、評価値や読み筋(AIが読むその局面以降の展開)を面白がってくれて、解説に生かしてくれたりして」 第4局の中継ではこんなこともあった。 大盤解説で登場した羽生善治(九段、当時は王位など三冠)が、ある局面での形勢について、後手の森内がやや優勢ではないかとの見立てを語る。その直後、画面にAI(この時はPonanza(ポナンザ))の評価値が表示され、羽生と同じく「後手やや優勢」を示す。 すかさず画面上には「Ponanzaやるな」というコメントが流れる。 確かにこの時、視聴者はAIよりも羽生の形勢判断のほうを信用していたのである。
藤井聡太も「泣きたい…」 無情の評価値表示
それから4年。 月田が開発した評価値表示は、若き天才棋士の劇的な一戦で最大限の効果を発揮することになった。 2017年12月23日にニコ生で中継された、第3期叡王戦本戦トーナメント。 デビュー戦から29連勝という新記録を達成し、その後も驚異的な勝率で勝ち続ける藤井聡太(七冠)の登場である。 当時まだ四段だった藤井の相手は深浦康市(九段)。 タイトル経験者でもあるベテラン棋士との戦いだったが、藤井は中盤で圧倒的な優勢を築き、114手目の局面での評価値は「2312」。 勝利はほぼ確実という数値だ。 ただ、この時点で藤井は持ち時間を使い切り、一手1分未満で指さないといけない「1分将棋」。秒読みに追われる中で疑問手が出た。 この瞬間、ニコ生「評価値」が真骨頂を発揮する。