「格ゲーみたいにしたい」…会長のひと言で ニコ生担当者が明かす将棋の“AI評価値”秘話
「評価値バー」でざわつくコメント
2013年3月、第2回将棋電王戦が開幕。 現役棋士とコンピューターとの団体戦で、評価値表示がついに登場した。 開幕戦は阿部光瑠(七段、当時は四段)とコンピューターソフト「習甦(しゅうそ)」の対局だ。 ニコ生の中継は、人間の棋士による解説とAIの評価値表示というハイブリッドで進められた。 スタジオの阿久津主税(八段、当時は七段)が、スタジオでおなじみの大盤解説を行っていると、10手目が指されたところで早くも「ボンクラーズの評価関数(評価値)を見てみましょう」というアナウンスが入る。 永世棋聖の米長を破ったAI、「ボンクラーズ」が形勢判断を担っているのだ。 中継画面の上部に示された評価値は、阿部-36、習甦36。 そして格ゲーの「ヒットポイントゲージ」に着想を得た「評価値バー」が、2つの数値の間に横たわっている。 青色と緑色に分けられた、その「評価値バー」は、習甦の青色がほんの少しだけ阿部の緑色を押し込んでいるはずだが、肉眼ではまだ見分けられない。 阿久津があきれたような声を上げる。 「やっぱりコンピューターはすごいですね、こんな早くから評価関数とか出せちゃうんだな。人間同士だと、まだ『おはようございます』と言った後の、次の会話をしている段階ですからね」
さらに阿久津は評価値の目安について、聞き手の女流棋士と会話を続ける。 「投了する瞬間だと2000点くらいの差があるという話は聞いたことあるんですけど。1000点くらい差があると結構逆転するのが大変、みたいな」 戦いは中盤から阿部がリードを奪い、評価値バーでも阿部の緑色が、少しずつ青色を押し込んでいく。 終盤、ついに阿部の評価値が2000点を超え、113手で習甦側の投了となった。 将棋中継に初めて登場した評価値表示。 視聴者の反応はどうだったのか。 ニコ生は視聴者の打ち込んだコメントが画面上を流れていくのが売り物のひとつだ。 月田によれば対局中、「AIによる評価値」を見てコメントがざわつく場面も何度かあったという。 「人間が見たらまだまだ互角なのに、表示ではこっちがかなり優勢だ、とか視聴者が考えていることと全然違う表示が出るとコメントがわーっと盛り上がっていましたね。『AIの思考の可視化』について皆さん、面白いと思ってもらえたんじゃないでしょうか」 次に目指すのは人間同士の対局での評価値表示。 だが、月田にはちょっとした懸念があった。