本気で「暮らしイズム」に取り組むなら、韓国は成長のあり方を変えよ【寄稿】
ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授・ソーシャルコリア運営委員長
平凡な人々の暮らしの問題が院内の多数党である「共に民主党」の代表選挙で話題になったのは、「本当に」歓迎すべきことだ。代表選挙に出馬したイ・ジェミョン候補は出馬宣言で、「今、政治は何をなすべきか」と問い、「(国民が)暮らしを立てていく問題ほど重要なものはない」と述べた。彼は「国民が暮らしを立てていく問題を解決すること、『暮らしイズム』こそが唯一のイデオロギーでなければならず、成長の回復と成長の持続がすなわち民生であり、『暮らしイズム』の核心だ」と断言した。百回聞いてもその通りだ。民生はすべてに優先して政治家が解決すべき課題であることは明らかだ。だが「暮らしイズム」すなわち民生は、単に食べて生活すること「のみ」の問題として片付けてはならない。 2023年の韓国の一人当たりの国民総所得(GNI)は3万6194ドルで、日本を上回った。批判の余地はありえるが、統計庁が発表した各種の指標を見ると、国民の生活水準はこの10年間で改善され続けてきた。中位所得の50%を基準として測定した相対的貧困率も、2011年の18.6%から2022年には14.9%へと低下した。所得の不平等を測定する可処分所得のジニ係数も、2013年の0.372から2022年には0.324へと低下している。主観的な暮らしの満足度指標もほとんどが改善している。 統計庁の発表した社会・経済指標が目に見えて改善しているにもかかわらず、生きづらさに苦しんでいる人は依然として多い。さらに、韓国社会が持続可能ではないという兆候がそこここで繰り返し表れている。合計特殊出生率は下がり続け、学術的に説明が不可能な0.7台まで下がり、0.7割れもみえている。自殺率は依然として経済協力開発機構(OECD)加盟国で最も高い。一部の人々は、韓国人が悲観的すぎるから起きている現象だという。しかし、韓国行政研究院の「社会統合実態調査」を見ると、この10年間で、調査時点で「昨日は幸せだったか」という問いに対する「幸せだった」との回答の割合は高まっており、「昨日は心配、憂うつを感じたか」に対する「感じた」との回答の割合は低下している。 何が問題なのだろうか。成長率の低さか。成長率を高めて所得がさらに増えれば、私たちの直面する社会・経済的危機は緩和されるのだろうか。「全国民25万ウォン支援法」は長い干ばつの後の恵みの雨となりうる。しかし、その次は? 韓国社会を1990年代から2020年代までの歴史的視点で見てみよう。先述した社会・経済的危機のほとんどは、韓国が中間所得のわなに陥らずに高所得国となる過程で発生した。ジニ係数が傾向的に高まったのも、合計特殊出産率が異常に低下したのも、自殺率が急激に高まったのも、富と社会・経済的地位が学閥を通じて世襲されはじめたのも、すべて韓国が高所得国となりはじめた1990年代以降のことだ。 朴正熙(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン)の両権威主義政権は、国民の暮らしを立てる問題が重要だという名目のもと、民主主義と人権を蹂躙(じゅうりん)した。民主化後のここ40年あまりは、グローバル競争で勝たなければ暮らしを維持できないとして、国民をし烈な競争へと追い込んだ。「暮らしイズム」は重要だが、「暮らしイズム」が単に成長率の高さに還元されてはならない理由はここにある。 イ・ジェミョン候補が出馬宣言で表明したように、重要なのは「問い」だ。民生問題をきちんと理解でき、絶対に必要な民生案を打ち出せるのは、きちんとした問いだけだ。なぜ韓国社会を高所得国へと導いた驚くべき成長が、超少子化、自殺率の上昇、富の世襲に代表される社会・経済的危機を深化させたのか、きちんと問うべきだ。「悪質な雇用を増やす成長であろうと、雇用さえ増やせば良い」と信じているのでないのなら、過去40年間に韓国がどのように成長してきたのかを問わなければならない。 なぜ大企業はグローバル企業へと成長したのに、国民の90%が働く中小企業は次第に競争力を失いつつあるのか。なぜ韓国の大企業はドイツ、日本などのような製造業大国と比較して熟練労働者の雇用を減らし、自動化機械を3倍近くも使っているのか。グローバル化の基調が再編されつつある状況にあっても、韓国は海外需要に依存した成長を続けられるのか。イ候補の言う「暮らしイズム」のための成長とは、誰のためのいかなる成長なのか。今、論争においてこのような問いは聞こえない。民主党が本気で「暮らしイズム」に取り組むのなら、成長のあり方を変えうる代案を打ち出さなければならない。 ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授・ソーシャルコリア運営委員長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )