「ポチッと注文」ECの裏にある過酷な配送、対等関係とはほど遠いアマゾンドライバー #令和のカネ
スマートフォンで「ポチッ」と注文するだけで、あらゆる商品が自宅に届くインターネット通販。受け取り時間の指定や再配達など充実した配送サービスを売りにするが、時間に追われるドライバーの労働環境は厳しさを増している。 労働組合を結成して是正を訴えるドライバーも出始める中、アマゾンジャパン(東京)から商品の配送業務を請け負う個人事業主「アマゾンフレックス」の岩田薫さん=40代、仮名=も、過酷な環境を変えたいと願う一人だ。アマゾンの配送システムに管理され、ミスが許されない現場でドライバーは一体何を思うのか。岩田さんの軽バンに同乗し、実態を取材した。(共同通信=中尾聡一郎)
配送個数や場所を知るのは当日、スマホを素早く操作し「作戦を練る」
10月某日。神奈川県内の道路沿いにそびえ立つ無機質な建物に1台、また1台と似たような軽バンが吸い込まれていく。車の流れが止まってしばらくすると、後部の荷室にたくさんの段ボール箱を積んだ約10台の車が現れ、次々に近隣の住宅地へと散っていった。外観からはよく分からないが、この建物は神奈川県内にいくつかあるアマゾンの大型配送拠点だ。 岩田さんは数日前に専用アプリで仕事を請け負った。午後5時半ごろから4時間半という配達の時間帯と、9千円という報酬額は事前に分かるが、配る荷物の個数や場所は当日に知らされる。この日割り当てられた荷物はお酒や書籍など計約60点。指定された配送場所はこれまで何度も訪れた住宅街だ。 倉庫からの道すがら、ダッシュボードに取り付けたスマートフォンの画面を素早く操作した。「どう走ろうか作戦を練る」という。ドライバーたちの間で「ラビット」と呼ばれる専用アプリには、目的地となる住宅が地図上にずらりとピンで表示されていた。 午後6時過ぎ、1軒目に到着した。帽子に取り付けた小型ライトで荷札を照らし、荷室から手際よく段ボール箱を取り出す。出発前にどの荷物をどこに積んだかはきちんと記憶している。玄関の脇に品物を置き、写真を撮ってアプリで送信。「突然雨が降っても、なるべくぬれないような場所に置く」のが岩田さんの流儀だ。手順や注意点を記者に教えながらの作業だったが、この間およそ2分。流れるように2軒目に向かった。