「ポチッと注文」ECの裏にある過酷な配送、対等関係とはほど遠いアマゾンドライバー #令和のカネ
当てにならないAIの〝最適ルート〟経験頼りにゲーム感覚で配送
住宅地は狭くて暗い道も多く、地図上ではつながっているように見えても実際は通れない場所もある。アプリが配送ルートを推奨してくれるが、従うと袋小路に入ってしまうこともしばしば。岩田さんは「人工知能(AI)で計算した最適ルートという触れ込みですが、私は全く当てにしない」と話す。経験を頼りに、バックや切り返しを駆使して夜の住宅街を縫うように走る。 半径2キロ圏内を回る道中、同業とみられる軽バンやヤマト運輸のトラックに何度もすれ違った。「私たちが日本の物流を支えているという自負はありますよ」。岩田さんがぽつりとこぼしたひと言が、耳に残った。 午後9時過ぎ。「あと1時間で終了」との警告がアプリに届いたが、車内の荷物は残りわずか。客に文句を言われたり、マンションの管理人から「車を早く動かしてくれ」と詰め寄られたりするようなトラブルもなく、配送は順調だった。 スマホ画面に表示されていたピンが次々と消え、記者はまるで位置情報ゲームを遊んでいるかのような錯覚に陥った。感想を伝えると「アマゾンフレックスの仕事ってゲーム好きの人が楽しみを感じやすいって言われるんです」。岩田さんも自分で決めたルートが「きれいにはまる」と快感を覚えるらしい。アマゾンの巧妙な仕掛けかもしれないが、記者の考えすぎだろうか。
評価は「ブラックボックス」。誤配送には「アカウントバン」も
50を超える住宅を巡り、届けられなかった荷物は一つ。不在だった住宅には2度訪問し、そのたびに電話を鳴らしたが反応がなかった。ただ、夜の時間帯で在宅率が高く、玄関前に荷物を置く「置き配」を選んだ人も多かった。「持ち戻り(不在で持ち帰る荷物)がないと直帰できたのに…」と残念がる岩田さんだったが、こうした事態は想定の範囲内。終了時刻ちょうどに拠点へと帰り着き、不在分をアマゾンの担当者に引き渡してこの日の業務を終えた。走行距離は約38キロ。「いつもより少なめ」だった。 その後、近くのコンビニに立ち寄り、缶コーヒーで喉を潤した。5時間ぶりの水分だ。「配送中はトイレを探す時間がもったいない」という。夏場は熱中症を防ぐために水分が欠かせないが、冬場はトイレが近くなるため「極力飲まない」と岩田さんはこぼした。これほどまでにドライバーが時間を気にするのには、理由がある。アマゾン独自のドライバー評価システムだ。 岩田さんによると、配送できない「未配」となったり、誤った場所に配送したりすると低い評価に結びつくという。評価が高ければ仕事が取りやすくなる半面、低くなると「アカウントバン」、つまりアマゾンでは配送の仕事ができなくなる。評価はだいたい分かるものの、詳細はブラックボックス。理不尽に感じないか尋ねると、岩田さんは「おかしいと思えば、抗議することもある。ただ、それも聞き入れられたかどうかはよく分からない。外資っぽいですよね」とため息をついた。