イスラム国をどう見るか? イスラム差別から掃討作戦まで 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(4)
イスラム国の封じ込めは可能か
萱野:今はじゃあ、高橋さんにお伺いしたんですけれども、イスラム国は勢力を今、まだ拡大していると考えていいですか。それとも今、イラク政府も掃討作戦にどんどんどんどん入っていってますし、アメリカもそこを肩入れしてくって形ですけども、今、どういうふうに分析すればいいですか、イスラム国の情勢は。 高橋和夫:私の見方はピークは過ぎたと。 萱野:ピークは過ぎた。 高橋:ええ。で、軍事面では明らかに劣勢に立たされていると。経済面でもイスラム国の一番安定収入は石油収入でしたよね。で、実はシリアのアサド政権、空軍を持っていて、石油関連施設って一番爆撃しやすいのに、イスラム国の力が強くなるほうがまともな反アサド勢力が育つよりいいということで、爆撃しなかったですよね。ですから、シリアだけで見ると、反アサド勢力でまともな人たちの力が強くなれば、じゃあ、アサドやめてもらえればいいじゃないかということになるわけですけど、イスラム国が強くなれば、イスラム国とアサドとどっちかって言うと、それはアサドのほうがまだましだという、そういう構図をアサドは望んでたと思うんですね。ですから、イスラム国はある意味、シリアはまともにイスラム国とは戦争してなくて、それで大きくなったという面があるじゃないですか。で、アメリカは今、イスラム国の石油関連施設を爆撃しますから、経済面でもかなり苦しい、軍事面でも押され始めた。で、今これだけブランド化したのはやっぱり、戦争に勝ってきたからですよね。 萱野:やっぱ強かったっていう、支配地域が広げて。 高橋:強かった。ええ。神さまがついてるからだってみんな思ってたわけですけど、だんだん撤退を始めてますよね。そうすると、これまでのように人を集められるかどうかはまた別問題になってくると思いますね。 萱野:なるほど。イラクはイラク政府がイスラム国を倒すことには協力的で、アメリカと一緒に行動してますけれども、シリアも今後はイスラム国を倒す方向に動いていく可能性があるということですか。シリア政府も。 高橋:シリア政府はそのつもりなんですけど、実はアメリカ、あるいはトルコなんかはイスラム国とアサド政権、両方倒したいわけですよね。すると、アサド政権とは協力しにくいと。だから、アメリカなんかはだんだん分かってきて、もう現実的にはアサド政権4年やって倒れないんだから、取りあえずイスラム国だろうという議論ですよね。で、トルコの議論は、イスラム国みたいなのが出てきたのはアサド政権が悪いからで、だから、イスラム国というのは症状だから、病気の根本原因のあるアサド政権を倒すべきだっていうのがまだトルコの建前ですよね。でも、アメリカの議論は、でも、出血多量で死にそうなんだから、それは漢方薬飲んでても間に合わないから、取りあえずバンドエイドだよっていうのがアメリカの議論で、トルコはいやいや、アサド政権だという。でも、おそらくトルコもだんだん変わってくると思うんですけど、そこんとこでやっぱりコンセンサスを積み上げないと、誰が敵かというのがまだ分かってないようでは。イラクではアメリカはパートナーがいるけど、シリアではパートナーがいないんですね。 萱野:いないですね。 高橋:自由シリア軍っていますけど、全然育ってないですから。 萱野:アメリカはだから、シリア政府の許可なしに空爆をしてるわけですよね、今。これ効果あるんですか。やっぱり地上軍と一緒にならないと、なかなか空爆って効果を上げないような気もするんですけれども、単に地上軍の援助がなくて空爆してるだけで効果発揮するような感じあるんですか。 高橋:1つは目標は石油関連施設ですよね。ですから、それは確実に。 萱野:できる。 高橋:できて、あとは、シリアで主として北部でコバニというクルド人の町の防衛で平原に出てきたイスラム国の大型兵器をずっと爆撃してたんですね。で、コバニではクルド側が勝ちましたから、だから、限定的な爆撃しかしてないですから、限定的な効果しかないんですけど、限定的な効果は着実に上がってる。なぜ限定的な爆撃しかできないかというと、地中海から航空母艦から飛べたって、長い距離を飛ぶから空中給油をして爆弾落として、また空中給油して帰るわけですよね。パイロットはくたくたで、そんなに回数こなせないんですよ。 で、今、ですから、トルコの空軍基地を使えれば、もうちょっと回数は増える。でも、トルコは、いや、アサド政権を倒すなら使ってもいいけど、じゃないと駄目よっていうことなんですね。ですから、トルコを説得してトルコの政策が変われば空爆の回数も増えるし、シリアでの状況もかなり動くと思いますね。 萱野:なるほど。 黒木:そのトルコはやっぱりなかなか難しい、自分の中にもやっぱりそうやりながら、だんだんとイスラム国の影響も及んでくるわけですよね。本当に難しいですよ。 萱野:そうですね。クルド人問題も抱えてますしね。 ---------------------- ※書き起こしは、次回(5)に続きます。