実は伐られた木の半分以上が使われていない!? 建築家が自邸で挑戦した、原木の丸太を最大限に生かした木造住宅
木造建築が見直されその数が増えている一方で、伐り出された木の半分以上が製品として使われていないという現状があります。 【写真で見る】力強い丸太が魅力的!その裏に隠された建築家の思いとチャレンジとは? 建築家の網野禎昭さんが目指したのは、できるだけ無駄を出さずに木を使い切って山元の努力に報い、山に利益を返す木造住宅の建築でした。
日本の林業の現場で一緒に考えた山と共存する木の住まい
間近に富士山を望む富士宮市の郊外に網野さんの自邸はあります。 伐り出した木をできるだけ加工手間をかけず、また、無駄なく使うことによって林業家や製材所に利益を返し、引いては日本の山を守ることに道筋を付けたいという願いから生まれました。
「木材の活用は進んでいるかのように見え、木材自給率は少しずつ上がっています。ところがその一方で、製材の歩留まり、つまり伐り出された原木がどれだけ製品化されているかを見ると、数字は低下の一途をたどり、今では約45%。 この歩留まりの悪さは、そのまま林業家や製材所の所得減につながり、日本の林業は痩せ細るばかりです」 原因は“均質化”や“加工精度”の要求の高まりだといいます。住宅生産側が効率よく木造住宅を生産するために、扱いやすい均質な規格材だけを求める傾向に。 手間暇をかけて一本の原木からいろいろな材を取り出しても、それを使う住宅生産者がいません。
工業製品並みの品質を備えたものを早く大量に安価に供給することだけが求められ、丸太から真ん中だけを柱材に加工したら、それ以上、面倒な手間はかけていられません。 それが歩留まり50%以下という驚くべき数字として表れています。
スイスで学んだ木の理(ことわり)
「私が木造建築を学んだスイス連邦工科大学のユリウス・ナッテラー先生は『できるだけシンプルな技術で、木の理(ことわり)に則ってつくりなさい。 そうすれば、そこに参加できる人がたくさんいて、山と山の人の生活を支えることができる』とおっしゃっていました。 確かに、家造りの“川下”にいる設計者が知恵を働かせ、過度な加工を減らし、曲がった木も半端で捨てられそうな木も適材適所を見つけて使っていけば、歩留まりはどんどん上がります。 “川上”の林業家や製材所が潤うのです。試されているのは建築する側の知恵だと思います」
原木を生かしたシンプルな2階建て
網野さんは、自邸の建築を、製材の現場で、原木をどう挽くかということを一緒に考えることから始めました。 製材所の「こう使ってもらえたらうれしい」という声を聞きながら、シンプルな2階建てを構想。 屋根を支える登り梁は可能な限り加工を控え、壁は30㎝角の杉の柱材を並べてつくりました。丸太を目一杯使うため、角には丸みを残しています。 吹き抜けに面した2階のブリッジも21㎝角の杉材を並べただけのものです。 あくまでも簡素に、木の理に沿って単純に重ね、組み合わせてつくりあげたその家は、自然の風景になじみ家族の暮らしをあたたかく包みます。