とりあえず「ラッキー!」と口にすべき非スピリチュアルな理由。
職場には「すぐあきらめる人」と「絶対あきらめない人」がいる。一体、何が違うのだろう? 本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。 いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。 本書もいよいよ最終セクションとなった。 ラストのテーマは「ラッキー」──である。 「最後の最後でなにやら胡散臭い話だな……」とは思わないでほしい。 いきなりスピリチュアルめいた話をするわけではないし、最後になってポジティブ思考を持ち上げるつもりもない。 ここで扱うのは、あくまで“思考グセとしての”ラッキーだ。 この思考アルゴリズムの意味をしっかりお伝えして、本書を締めくくりたい。 ● 「クルマを傷つけられる側の人生でよかった!」 まだ20代の頃、ある人の講演でこんな話を聞いたことがある。 「最近、新車を買いましてね。子どもの頃からずっとほしかった車種で、がんばってやっと買ったんです。 ところが先日、その新車でデパートに行って買い物をしているあいだに、ボディにおもいっきり傷をつけられていたんです。いたずらか何かでしょうね。明らかにクギのような尖ったものを使った形跡がありました。 もちろん、一目見た瞬間、『うお~!』と思いましたよ。 でもね、ちょっと冷静になって考えたんです。『この傷をつけた人、相当ストレスが溜まってたんだろうな』と。 だって、他人のクルマに傷をつけたところで、自分には何の得もないじゃないですか。 ヘタしたら器物損壊罪で前科者ですよ。何も得しないのに、こんなリスクを冒すなんて、よっぽど嫌なことがあって、正常な判断力を欠いていたんでしょうね……。 それに比べて、ぼくは別に大きなストレスは抱えていない。人が傷つけたくなるくらいいいクルマも持っている。 クルマを傷つけられる側の人生でよかった。ラッキー!」 最初は新車に傷をつけられたという話だけかと思ったが、いつのまにか「自分はいかにラッキーなのか」という話になっていた。 「なぜこんな考え方ができるのだろう?」と興味を持った私は、講演会終了後、その人に話を聞きにいった。 「とりあえず『ラッキー!』と言うようにしているだけですよ。 『プラス思考で行こう』なんて難しいことは考えなくていい。 予想外の出来事が起きたら、先にとりあえず『ラッキー!』って言ってしまうんです。 で、その後に『何がラッキーなのか』を考える──それだけです」 悩みを「解消」するだけなら、ここまで見てきた思考アルゴリズムで十分だ。 だが、本当の意味で「悩まない人」は、ただマイナスをゼロに戻すだけではなく、マイナスからプラスの解釈を生み出す「思考グセ」を身につけているのだ。 ● 「感情」にはタッチしない「思考」ゲーム しかも注目すべきなのは、この考え方を教えてくれた本人が 「『プラス思考で行こう』なんて難しいことは考えなくていい」 と語っていたことだ。 起きたことを前向きに捉え直すという点では、ポジティブ思考に似ているものの、彼は自分の考え方をそれとは区別していたのである。 その人の言葉を借りるなら、これは「とりあえず『ラッキー!』と言ってみて、後づけで理由を考える思考ゲーム」である。単なるゲームなので、結果的に何も思いつかなくても損はしない。 もう少し別の角度からいえば、「とりあえず『ラッキー!!』と言う」だけの場合、「感情」とは一切向き合おうとしていない。 とにかく大事なのは「ラッキー!!」という言葉を口に出してみること。無理に「うれしい」と思う必要もない。 その場で生まれたネガティブな「感情」は、あくまでも「思考」ゲームを開始するための「合図」にすぎない。それをポジティブな感情に捻じ曲げるような不自然なことはしなくていいのだ。 この考え方の魅力に感激した私は、それ以来、ことあるごとに「ラッキー!!」と口にしてみるようにしたのだ。 ● 「ラッキー!」こそ最強の思考アルゴリズムである 前述のとおり、私は起業2年目に詐欺に遭い、全財産を失った。 にもかかわらず、翌日からそれまでどおり上機嫌で仕事に打ち込めたのは、「とりあえず『ラッキー!!』と言ってみる」習慣のおかげだ。 当時の思考プロセスについては、すでに述べたので引用しておこう。 知人の起業家たちと話していると、かなりの割合の人が騙されたり裏切られたりするツラい経験をしている。大きく成功している人ほど、どこかのタイミングでだれかに手ひどく騙されているのだ。 ただし、それが起業1年目なのか、売上10億円を超えた年なのか、上場1年目なのか、引退1年前なのかは選べない。当然、事業が大きくなってからのほうがダメージは大きくなりやすい。 そう考えると、最も初期の段階で「わずか120万円」を奪われるだけですんだ私は、かなりラッキーだった。(中略)事業規模が100倍に成長した段階だったら、1億2000万円を失っていた可能性だってあるのだ。(中略) この段階で「小さな痛手」を経験できた以上、私はもう二度と同じ詐欺に遭うことはないだろう。人生の貴重な授業料と考えれば、これはかなり割安だと思うようになったのである。 数日遅れで事件を知った友人たちが、あれこれ心配して慰めの言葉をかけにきてくれた。 だが、一向に気に病んでいる様子がない私を見た彼らは「きっと無理してカラ元気を出しているのだろう」と思っていたようだ。 私も最初のうちは「落ち込む必要がない理由」をいちいち説明していたが、途中でそれも面倒くさくなり、友人たちの前では落ち込んでいるふりをしていた。 この体験のおかげで、私は「思考の力があれば、どんな困難も乗り切れるし、それを力に変えていける!」と自信をつけることができた。 悩みの原因を「解消」したり、具体的な課題に「昇華」したりするだけでなく、それらを「ラッキーに転換」できるようになると、いつしかトラブルや困難そのものが「自分を前に進ませてくれる原動力」に変わっていく。 私は自分の人生がガラッと変わったように感じられた。 その意味では、「ラッキー!」こそが最強の思考アルゴリズムと言ってもいい。 一流の経営者たちが自らの失敗を愛しているのも、彼らがこの考え方を大切にしているからである。 彼らは大きな逆境に出くわしたときほど、「ラッキーと言える理由」を考え出すことを楽しんでいる。 正直なところ、私もトラブルが起きるたびにワクワクする体質になってしまった。 会社で社員から「これはピンチです!」「ヤバい事態が起きました!」と報告が入るたびに、私の中では「(お! またこれで会社が大きくステップアップするぞ……)」「(よしよし! この社員が成長するチャンスがきたな……)」と期待感が生まれるようになっているのだ。 ● 「ラッキー大喜利」でらくらく脳にインストール! これは純粋に「思考グセ」の問題なので、とにかくことあるごとにこの考え方を繰り返し、「脳の習慣」として定着させていくしかない。 一定期間にわたってこの考え方を続けていると、歓迎できない事柄についても、脳が自動的に「ラッキー!!」→「何がラッキーなんだろう?」と考え出すようになる。まさしく思考アルゴリズムがインストールされた証拠だ。 「ラッキーである理由」は、別にどんなものでもかまわない。 他人を説得するのが目的ではないので、自分さえ納得できればなんでもいいのだ。とはいえ、最初はなかなか苦労する人も多そうなので、少しだけ練習してみよう。 題して「ラッキー大喜利」──。 例題を挙げておいたので、自分なりの答えをぜひ考えてみてほしい。 【お題①】「突然、雨が降ってきて……ラッキー! なぜ?」 【お題②】「第一志望の会社の就職面接で落ちて……ラッキー! なぜ?」 【お題③】「妻からのお小遣いが月1万円しかなくて……ラッキー! なぜ?」 【お題④】「交通事故で1か月入院することになって……ラッキー! なぜ?」 【お題⑤】「なにげないひとことで親友を怒らせてしまって……ラッキー! なぜ?」 いかがだろう? 次に回答例を載せておくので、自分の答えと照らし合わせてみよう。 《回答例》 【お題①】「突然、雨が降ってきて……ラッキー! なぜ?」 ・カサつきが気になっていた肌が潤う ・クルマで移動する人が増えて電車の混雑が緩和される ・買ったばかりの傘がついにデビューする 【お題②】「第一志望の会社の就職面接で落ちて……ラッキー! なぜ?」 ・自分に合わない会社に入るのを面接官に食い止めてもらえた ・もっといい会社に出合うためのきっかけをもらえた ・将来、この会社に転職するときのネタができた 【お題③】「妻からのお小遣いが月1万円しかなくて……ラッキー! なぜ?」 ・お金を無駄遣いせずにすんでいる ・どうしようもない飲み会で時間を無駄にせずにすんだ ・家計や投資プランを見直すきっかけを与えてもらえた 【お題④】「交通事故で1か月入院することになって……ラッキー! なぜ?」 ・忙しくて取れなかった長期休暇の口実ができた ・人生を振り返るタイミングができた ・好きな本・好きな映画を好きなだけ楽しめる 【お題⑤】「なにげないひとことで親友を怒らせてしまって……ラッキー! なぜ?」 ・自分の言動のよくない部分に気づくことができた ・親友が持っている新たな価値観を知ることができた ・それでも仲直りしたいと思えるほどの絆を実感できた (本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)
木下勝寿