2025年大阪万博に「みゃくみゃく」と受け継がれる昭和の亡霊とは? 世界の万博跡地を歩いた古市憲寿が解説!
成功したメガイベントの共通点
夢洲でのカジノを中核とした統合型リゾートは早ければ2030(昭105)年の開業を目指す。 だが外国人向けに大阪を再開発することには正当性があるとして、必ずしも万博を契機にする必要はなかったのではないか。ミラノの例を見てもわかるように、万博などなくても大阪への観光客は増え続けるだろう(注5)。 近年のメガイベントでは、短期的な「インパクト」や、ただの「レガシー」だけではなく「レバレッジ」が求められる(注6)。本当にその都市にとって必要なインフラや施設ならば、メガイベントなどなくても開発は進むからだ。 2024年にはパリでオリンピックが開催された。実はパリにとって悲願の開催で、何と30年以上にわたる計4度の招致活動が結実したものだ(注7)。 これまでの招致活動では、オリンピックに合わせたパリの都市改造が提案されてきた。だが興味深いことに、オリンピックが開催されなくても、ベルシー公園や地下鉄14号線、国立図書館新館など重要な都市開発は実現してきた(注8)。いくらオリンピックがレガシーを残せると言っても、改修工事が必要で、それ自体が無駄という意見もあり得る。 一方で、本章でも見てきた通り、メガイベントのレガシーは十分に活用されているとはいいがたい。 僕はこれまで20を超える万博跡地を訪れてきたが、きちんとレガシーを活用できている街はほとんどなかった。パビリオンが博物館、敷地がイベント会場として活用されているくらいで、巨額な投資に見合ったレガシーかは非常に怪しい。 数少ない成功例は、研究都市として整備された韓国の大田(テジョン)、再開発と密接に結びついていたポルトガルのリスボンやオーストラリアのブリスベン、権威主義国家として威信を見せつけたかったアスタナくらいだろうか。 だが共通点は、どれも特別博・認定博という小規模な万博だったことだ。小規模ゆえに比較的都市の中心部での開催が可能で、地元の需要と密接に結びついた開発が可能だった。 だが今度も大阪万博は、登録博という大規模万博だ。メガイベントには一定規模の土地が必要となるので、開発は必然的に都心から外れる。しかし都心に住む人は、よほどの理由がないと郊外には行かない。 (注4) 松井一郎『政治家の喧嘩力』PHP研究所、2023年。 (注5) ただしインバウンドへの過剰な期待は危うい。仮に1500万人の旅行者が1週間ずつ滞在しても、定住人口に置き換えると30万人程度にしかならない。 (注6) Grix, J. et al. (2014). Leveraging Legacies from Sports Mega-Events: Concepts and Cases, London: Palgrave Macmillan UK. (注7) パリは1992年、2008年、2012年、そして2024年の開催と4度もオリンピックを招致してきた。オリンピックへの異様な執着は東京を思い出させる。 (注8) 佐々木夏子『パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」』以文社、2024年。