JAL、飲酒問題の機長2人解雇 グループ内の再雇用否定
日本航空(JAL/JL、9201)は12月27日、国土交通省による行政指導「業務改善勧告」の対象となった現地時間1日の豪メルボルン発成田行きJL774便(ボーイング787-8型機、2クラス186席仕様、登録記号JA840J)の機長2人を解雇したことを明らかにした。乗務前日に2人の過度な飲酒で出発が3時間以上遅れ、会社側の調べに対して口裏合わせをして隠ぺいしていた。また、グループ内の航空会社でパイロットとして再雇用する考えがないことも示した。 【写真】JL774便に使用されたE12仕様の787-8 ◆グループ内の再雇用否定 JALが業務改善勧告を受けたのは「不適切な事実」が6点と「講ずるべき措置」が4点。JL774便は、当該便の運航責任者「PIC(Pilot In Command)」を務める機長、副機長、副操縦士のパイロット3人1組で乗務しており、管理職である機長資格者が2人とも飲酒問題に関わっていた。 不適切な事実は、1)乗務前日の過度な飲酒に関する事実、2)酒気を帯びた状態で飛行勤務のために出頭(注:出社の意)した事実、3)アルコール検査が適切に実施されなかった事実、4)運航乗務員が違反行為を隠蔽した事実、5)5月の厳重注意を受けた再発防止策が十分に機能しなかった事実、6)当局へのアルコール事案の報告が遅れた事実。 過度な飲酒については、滞在先のホテル近くのレストランで、スパークリングワインをグラス1杯ずつと、赤ワインのボトル3本を注文。2人とも運航規定に定める飲酒量の制限を超えていた。 監督する国交省航空局(JCAB)への報告は、原則として発生日から遅くとも3日以内の報告を求められているが、今回は会社側が2人の飲酒量や、同席者の有無といった事実関係の確認に傾注した結果、報告が遅れて発生から5日後の今月6日夜の報告になった。機長(59)と副機長(56)は当初、会社側に虚偽報告しており、発生から2日後の今月3日に現在明らかになっている事実関係を説明した。 JALによると、機長と副機長は知り合いで、久々に乗務が一緒になったことから現地で飲むことになったという。JALの社内規定では、乗務前のアルコール検査で、アルコールゼロを示す「1リットルあたり0.00mg」を確認後、パイロットを乗務させている。検査に加え、開始12時間前に体内に残るアルコール量を、純アルコール換算で40グラム相当の「4ドリンク」以下に自己制限するよう求めている。最終的な飲酒量は、2人が酔っていたことで明確ではない点があるとしつつも、ワイン3本を注文した時点で、社内規定に定められた量を超えたと判断したという。 アルコール検査の実施が不適切だった点については、メルボルン空港で機長と副操縦士が乗務前アルコール検査を実施し、出発前ブリーフィングを開始後も、副機長はアルコールが検知されなくなるまで自主的な検査を続け、乗務前アルコール検査を実施しなかった。 この時に、空港所の担当者がアルコール検査の状況をJALの本社へ報告し、判断を仰ぐ際、本来は運航本部の乗員サポート部へ連絡すべきところを、遅延など運航状況を連絡するオペレーションセンターへ報告したため、乗員サポート部の担当者まで詳細が伝わらず、アルコール検知機の誤検知と判断。パイロットの交代などの必要な措置がとられなかった。 JALは2人の機長を解雇。執行役員の南正樹・運航本部長は「私どものグループで飛ばすのは適切ではないと考えている」と、JALグループ各社でパイロットとして再雇用する可能性を否定した。 ◆副機長は6年前も飲酒事案 機長2人の口裏合わせについては、2人の説明は細かい点に食い違いはあるものの、機長が副機長に対し、乗務前日の飲酒量を赤ワインのボトル1本とすることを提案。帰国後に3時間の遅延などを疑問に感じた会社側に対し、虚偽の説明を行っていた。 また、機長は腹痛を訴えて出社を遅らせ、副機長は出社後もアルコールが検知されなくなるまで自主検査を続け、出社時には前日の飲酒が影響したことを会社に報告していなかった。 JALは今年5月27日に国交省から厳重注意を受けた後、6月11日に再発防止策を提出。その一環でステイ先での飲酒を禁じていたが、10月に解除した矢先に今回の問題が起きた。 JALによると、副機長は2018年にも飲酒が原因で、国内線に乗務する前にアルコールが検知されたことがあり、健康状態を定期的にモニターしていたが、操縦に関する訓練や審査では問題は出ていなかったという。2018年の発生時は、ロンドンで同年10月28日に男性副操縦士(懲戒解雇)が過度な飲酒で現地当局に身柄を拘束された事案の発生前で、アルコール検査は会社側の自主的なものだったという。 ◆パイロット不足も影響か 国交省が「講ずるべき措置」として挙げた4点は、1)飲酒対策を含む安全確保に関する社内意識改革、2)運航乗務員の飲酒傾向の管理の更なる強化、3)アルコール検査体制の再構築、4)厳重注意を受けた再発防止策の定着状況の継続的な確認を含む安全管理体制の再構築。JALはこれらを基に新たな再発防止策をまとめ、2025年1月24日までに再発防止策を提出する。 今回の業務改善勧告は、27日午後2時前、平岡成哲航空局長名の書面を国交省内で北澤歩安全部長がJALの鳥取三津子社長に手渡した。書面を受け取った鳥取社長は「ご指導いただいた」と述べ、再発防止策を徹底させる考えを示した。 一方で、メルボルン事案の発覚直後の今月20日に、成田発サンフランシスコ行きJL58便の副操縦士に対する乗務前アルコール検査が、適切に実施されていなかったことが判明。本来は出社後に検査を行うべきところ、遅延の影響を少なくするため、JALの運航本部の担当部署の指示で出社前に行っていたことがわかった。 JL58便の副操縦士は、乗務を翌日と勘違いして出社が遅れていたが、代わりのパイロットを確保できなかったため、そのまま出社するよう指示された。成田空港まで公共交通機関で出社すると時間が掛かる状況だったことから、自家用車で出社しつつ、車内でアルコールの自主検査を実施した。副操縦士はアルコールを受け付けない体質で、この検査でアルコール検知はなかった。 代替要員を確保できなかった点について、南運航本部長は「十分な余裕はない。養成や採用で要員確保に努めている」と、パイロット不足がJL58便のアルコール検査問題にも影響を及ぼした面があるという。 また、正式なアルコール検査の前に行われている自主検査は「悪質な人を想定していなかった」(南運航本部長)と、本来は自主検査の時点でアルコールが検知されないことを前提にしていたが、結果としてメルボルン事案のように、自主検査でアルコールが検知される事例が発生してしまったといい、今後は検査体制や手順などの見直し、パイロットの所属部門と健康管理部門の情報共有や連携を強化するとしている。
Tadayuki YOSHIKAWA