どうなる年金「加入者拡大」「3割底上げ」 制度改正の議論大詰め
■厚生年金の受給額はどうなる?
これによって厚生年金の受給額はどうなるのか? 厚生労働省の試算では、厚生年金の抑制期間が10年延びた場合、給付額は2040年度までは現行制度に比べて減少するという。逆に言うと、それ以降の年金受給額は現行制度を上回っていくことになる。 厚生年金の抑制期間を延ばし、国民年金の抑制期間を短くした場合、国民が受け取る年金の総額はどうなるのか? 40年間働いた会社員の夫と専業主婦の妻というモデルケースでは、今年度65歳になって受給開始する人が平均余命まで22年間受給した場合、受け取り総額は現行制度より31万円減るという。 一方で、この改革によって、いわゆる「就職氷河期世代」と呼ばれる1975年度生まれの今年度49歳になる人の受け取り総額は、現行制度より451万円増えるという。つまり、将来世代のほうが恩恵がより大きいものともいえる。 ただ、国民年金の底上げには課題もあるという。 国民年金の財源の半分は国庫負担となっていて、厚生年金の抑制期間を延ばし、国民年金の抑制期間を短くすることで、2070年度には国庫負担額は2兆6000億円にもなり、財源の確保が将来的な課題になるという。
■手取り減らさずに社会保険料増やすには
パートの人などに厚生年金を拡大する方向となっている。手取り減少への対応策も見ていく。厚生労働省はパートの人などが厚生年金に加入する要件を一部撤廃する案を検討している。 現在、学生以外のパートアルバイトの人が厚生年金に加入する主な要件は「従業員51人以上の企業等」「週20時間以上の勤務」「月収8万8000円以上(年収およそ106万円以上)」の人などだ。 厚労省はこのうち年収106万円という要件を撤廃する案を示し、撤廃の時期については2026年10月を想定しているという。さらに、従業員数に関する要件も撤廃する案も出ていて、これの撤廃時期については2027年10月を想定しているという。 これらの見直しで新たにおよそ200万人が厚生年金の加入対象になる。言い方を変えると、およそ200万人が新たに保険料の支払いが必要になるという。 では、厚生年金の加入で将来、年金はどれだけ増えるのか? 仮に専業主婦で40年、国民年金のみに加入していた場合、65歳から受け取れる年金は満額で月6万8000円。一方で、厚生年金の受給に必要な最低加入期間は10年だが、仮に10年間、厚生年金に加入し年収が105万円の場合、厚労省の年金試算ツール「公的年金シミュレーター」の試算では、65歳から受け取れる年金額は月およそ7万3000円で、6万8000円より5000円増える計算になる。 一方で、社会保険に加入することで手取りが減ることになる。 厚労省の特設サイトで計算すると、月額給与が8万8000円の場合、厚生年金保険料として8052円が引かれるなど手取りが減少。そのため、手取りを減らしたくない人が加入要件として残る就労時間を調整するため、週20時間未満の働き控えが起きる可能性も指摘されている。 こうしたなか、厚労省は手取りを減らさない対応策も検討している。 厚生年金保険料は現在、企業側と従業員側が50%ずつ折半しているが、厚労省は新たに加入する人たちの手取り減少を緩和するため、企業負担割合を増やす特例制度を検討しているという。 厚労省はこの特例については、年収156万円(月額13万円)未満の従業員を対象として、2026年度から期間を限定して導入することを検討しているという。 この特例に照らせば、およそ106万円から発生する社会保険料の多くを企業が負担することになるため、企業の負担軽減へ向けて補助や助成の仕組みも検討するという。