「相談しにくかったこと話しやすく」疎外感を抱く当事者らメタバース空間で交流 希少がんの患者やLGBTQの若者に「居場所」、岡山大がプロジェクト
希少がんと闘う若者や子どもたちの孤独を防ごうと、インターネット上の仮想空間「メタバース」を利用した交流が広がっている。遠く離れた地域に住む患者同士でも、メタバース上の「部屋」に、自分の分身となる「アバター」として集い、ゲームを楽しんだり、好きなマンガの話をしたり。入院生活の癒やしの時間になっているようだ。岡山大の長谷井嬢准教授(整形外科)が2023年夏に始めたプロジェクトで、全国各地の10カ所以上の医療機関が連携して進めている。LGBTQ(性的少数者)の若者たちを対象とした新たな居場所作りも始まった。(共同通信=小川美沙) 【画像】メタバースや仲人を使い、カップル倍増計画 鳥取
▽長期入院中でも…メタバースの砂浜を駆け回っておしゃべり 青い空の下に広がる海。砂浜を駆け回った後は、「海のいえ」で手に入れたイカ焼きをほおばりながら、座り込んでおしゃべりを楽しむ―。 ある日のメタバース空間は、「夏」を感じさせる設定だった。長い入院を余儀なくされている患者に、少しでも「自然」に触れてほしいと工夫した。全国から参加した患者たちは、思い思いの髪形や服装をしたアバターで参加する。 骨にできる悪性骨腫瘍など「希少がん」は、子どもや思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult=AYA)世代に多く発症する。患者数も、交流の場も少なく、お互いの悩みを話し合い、情報交換できる場はずっと必要とされてきた。長谷井准教授はなかなか病室の外に出られない患者が、アバターとして匿名で参加できることで、周囲には相談しにくかったことも話しやすくなるとみている。 ▽「ガムをかむと楽に」同じ病気の子からアドバイス
利用した若者はどう感じているのだろうか。希少がんを患い、岡山大病院に入院している吉田勇人さん(19)=仮名=は3月上旬、「もっといろんな人とつながって話をしたい」と語る。 この日の取材の直前も、愛知県の病院に入院しているAYA世代の患者と、メタバースの「居場所」で40分ほど過ごしたばかり。相手のことは詳しくは知らないが、オセロをしたり、学校の修学旅行で行った場所のことや、一時退院したら何をしたいかなど、おしゃべりをしたりして楽しんだ。「僕は焼き肉を食べに行きたいと言ったけど、相手はまだ決めてない、って」 入院して数カ月、ふだんはあまり人と話すことはなく、漫画を読むなどして過ごしている。これまで4回、メタバースを経験。出会った当事者からは、病気と闘う上でのアドバイスをもらうこともあった。最初に出会った同じ病気の子からは、薬のにおいが鼻についた時は、ガムをかむと楽になると教わり、「参考にしてみようかなと思ってる」。