三上大進「人との違いは『埋めるべき穴』ではなかった」 パラリンピック取材で変わった左手の障害への思い
平昌、東京の2大会でパラリンピックのリポーターを務め、現在はスキンケア研究家として活躍する三上大進さん。初の著書『ひだりポケットの三日月』(講談社)では、生まれつき左手の指が2本という障害のこと、自身のセクシュアリティーについて綴っています。パラアスリートたちへの取材を通じて気づいたこと、厳しく優しく育ててくれたお母さんへの思いなどを聞きました。
「ない」ものを補うより「ある」ものを輝かせて
――化粧品メーカーを退職し、2018年に平昌大会でNHKのリポーターを務めました。実際に目の当たりにした、パラリンピックの光景はいかがでしたか? 三上大進さん(以下、三上): アスリートたちの人並み外れたパフォーマンスに、とにかく大興奮でした。両足に義足をしている選手がスノーボードで高い山から滑走してきて、鮮やかにジャンプするんです。どうすればあんなことができるの?と、そのカッコいい姿に衝撃を受けました。 パラリンピックは、それぞれ異なる障害を抱えている選手たちが活躍します。障害があるという前提からスタートして、自分たちに残されたものを最大限に生かし、トップを目指す。そんな選手一人ひとりの人生にドラマを感じて、惹きつけられたのですよね。取材を通じて、私自身への見方や捉え方も変わっていきました。 ――どのように考えが変わっていったのですか? 三上: もともと私の左手の指は2本。物心ついたときから男性が好き。初恋の人はタキシード仮面! 「体の違い」と「性の違い」の二つを抱えてきました。この「違い」でできた穴を何かで埋めなければいけない、他人よりも評価できる面をつくらなければ自分を許せない。そんな意識が、ずっとあったような気がします。勉強を頑張っていい成績を取ったり、いい会社に就職したりと、スタンプラリーのように一つずつクリアしていくことでしか自分を評価できなくなっていました。 でも、パラアスリートたちは、障害の穴埋めとして競技をするわけではなく、たとえば手に障害を持つ人は、体幹や足を重点的に鍛えて強靭な体をつくり、競技に臨んでいます。もちろん義足や義手といったアイテムも使うのだけど、自分に「ない」ものを補うことよりも「ある」ものを輝かせることによって、高い壁を乗り越えようとしていたんです。 そんなアスリートたちを見て、全然完璧じゃない今の自分が、「完璧」なのだなと思えるようになりました。足りないものを穴埋めすることに一生懸命に生きるより、今あるもの、持っている魅力を磨いていくほうが、きっと充実した一生を送れるのかなって。 ――書籍には、取材以外の時間にアスリートと障害について語り合ったことも書かれていますね。 三上: 私と同じように片方の手に障害がある選手と「片手でフライパンを振りながら、もう片方の手で炒めるのって、めちゃくちゃ大変!」なんて話したこともありました。私一人がしんどさを背負っていたつもりだったけど、そんなことはなかった。障害を言い訳にするのって簡単ですが、超人的なパフォーマンスをしている人もいると思うと、それを言い訳に自分を“悲劇のヒロイン”にしてはいけないな、とそのとき思いましたね。 パラアスリートはみんな、「不利な状況」が得意なんです。今ある環境でどう工夫しよう?と考える癖がついている。パラリンピックの取材の経験を通じて、私も、「指が3本ない」のではなく「2本ある」と発想を変えることができた。今あるもの、自分が持っているものをどう活かして生きていこう、と自分のあり方が変わりました。