三上大進「人との違いは『埋めるべき穴』ではなかった」 パラリンピック取材で変わった左手の障害への思い
手術跡が残る左手に、化粧水の残りを塗った
――現在はスキンケア研究家として、ご自身のスキンケアブランドをプロデュースするなど活躍しています。美容に目覚めたきっかけは? 三上: スキンケアを始めたきっかけは、中学時代に恋をしたから! でも左手の違いに加えて、相手は男性、しかも学校中の人気者でライバルの女子も多く「私、スタートラインにも立てていない」と自信はゼロ……。そんなとき、電車の車窓に反射した自分の顔が、ひどく肌荒れしていることに気づき、「こんな顔で彼に会っていたんだ」って思って。ドラッグストアに駆け込んで1本の化粧水を購入しました。それが、美容の道に進むきっかけでした。 ちゃんと手をかければ、肌はきれいになっていく。その積み重ねが、たしかな自信になっていきます。一方で、9歳のときに移植手術した左手には、手術の跡が生々しく残り、爪も生えない状態。左手のことはどんどん見ないようにとケアから遠のいてしまい、ポケットにしまったままに。 でも、化粧水のボトルを開けるのにも左手は必要で、おのずと目に入ります。あるとき「顔のスキンケアばかり頑張っているけれど、この左手も含めて自分なんだよな」と思い、顔につけた化粧水の残りを左手にちょっとだけ塗ってみた。残りを塗るだけ、保湿するだけ……の積み重ねでも、10年くらい経ったらだいぶ左手が綺麗になったんです。そして左手の爪が、なだらかに育つようになりました。 今も手術の跡は完全には消えていないのですが、それでも毎日ケアした結果が今だと思うと、愛おしく感じます。ポケットから手を出して、前向きに歩いていこうと思えるようになったのも、日々の積み重ねがあったからこそかもしれませんね。
⚫︎三上大進(みかみ・だいしん)さんのプロフィール スキンケア研究家。大学卒業後、外資系化粧品会社でマーケティングに従事。2018年に日本放送協会入局。2018平昌、2020東京パラリンピックにてレポーターを務める。生まれつき左手の指が2本という、左上肢機能障害を持ち、自身のセクシャリティがLGBTQ+であることをカミングアウトしている。スキンケアブランド「dr365」をプロデュース、運営。 ◼︎『ひだりポケットの三日月』 著:三上大進 発行:講談社 定価:1,540円(税込) ©講談社
文:塚田智恵美