だからユニクロは「大企業病」にならなかった…柳井正が2011年元旦に流した全社員メール"過激な言葉"の背景
■目標達成が見えてきたら、さらに高い目標を掲げる ここで有効になるのが「3倍の法則」です。これは本書の第3章で詳しくお伝えしますが、ユニクロはイノベーションをドライブするために一定の目標達成が見えてきた段階で、現状の3倍程度の高い目標を掲げ、その実現のために10年がかりでのイノベーションをテコにした変革を果たしてきています。 過去の成功体験のしがらみにとらわれることなく、さらなる成長を目指すのです。2023年度の売上高は約2.7兆円ですが、3兆円が視野に入ってきたところで、柳井さんは2023年に第4の創業・10兆円構想をぶち上げました。壮大な目標に映るかもしれませんが、この壮大な目標が変革には効果的です。 人間は現状維持で満足しがちです。企業で働いていて目標を立てるとしても、現状を少し改善した程度になりがちです。前年度の取り組みを効率的に回して、前年度比で数%でも伸ばせば評価される企業が大半です。ただ、それでは持続的な成長にはつながりません。 たとえば、「3兆円を3.5兆円にしなさい」と言われたら、今の延長線上で達成可能に思う人が大半ではないでしょうか。 一方で、「3兆円を10兆円にしなさい」となると、根本的に考え方を変えないと絶対に実現が難しいと考えるはずです。ちょっとした改善策では不可能だと誰もが感じます。 ■常識外れの高い目標が変革を生み出す このマインドチェンジこそが狙いです。目標が壮大であれば、現状に満足することなく、試行錯誤する方向に意識が傾きます。自ずと、大胆なアクションを計画して試み、変革を起こす可能性も高まるというわけです。 これは米国のグーグルの「10X(テンエックス)思考」に似ています。これは社員にゼロベースでの思考を促すために、現状の数値に「0」を1つ足した目標(=10倍)を実現するにはどうやるかを考えさせる仕組みです。もちろん10倍の数値がそのまま目標となるわけではありませんが、「経路依存性」ともいわれる過去の成功体験に縛られないアウト・オブ・ボックスの発想を行うためには常識では、考えられない高い目標を掲げることが有効です。 人間は環境に左右される生き物です。そうせざるを得ない状況に身を置けば、意識は変わります。高い目標を掲げることでそうした環境を整え、ひとりひとりが変革を起こす仕組みをつくっているのです。その仕組みが、グループ全体を底上げして、ユニクロの急速かつ持続的な成長を支えています。 ---------- 宇佐美 潤祐(うさみ・じゅんすけ) UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了(政策学修士)。アーサー・D・リトル経営大学院修了(経営学修士、首席)。 1985年に東京海上に入社。米国留学を経て、戦略コンサルティング業界へ。ボストン コンサルティング グループ(BCG)ではパートナー、組織プラクティスの日本の責任者を務め、Organization Practice Awardを受賞。その後、シグマクシスを経て、2012年から2016年の間、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。その後アクセンチュアの人材組織変革プラクティスのジャパン全体の責任者を経て、リード・ザ・ジブンを起点にした人材組織変革を手掛けるUNLOCK POTENTIAL(「人と組織の可能性を解き放つ」の意味)を設立。デジタルトランスフォーメーションにともなう人材組織変革、経営者人材育成、経営チーム変革、組織風土変革、新規事業創出等のコンサルティングおよび研修・講演を行なっている。 ----------
UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 宇佐美 潤祐