はやぶさ2から分離成功 探査ロボ「マスコット」リュウグウを本格観測へ
ミネルバ2ができない夜のリュウグウ観測も
マスコットを投下する際のはやぶさ2の運用は、ミネルバ2-1のときとよく似ています。はやぶさ2はまず、高度20キロのホームポジションから徐々に高度を下げていきます。高度約60メートルより先は化学エンジンを止め、自由落下で高度を下げ、高度56メートルほどでマスコットを分離します。 はやぶさ2はミネルバ2-1のときと同じように、分離直後も自由落下を続け、分離から約1分後に化学エンジンを動かし、上昇します。ただし、投下目標の位置は、ミネルバ2-1がリュウグウの北半球だったのに対し、マスコットは南半球の中緯度となります。 マスコットははやぶさ2から分離されると、搭載されたリチウム一次電池から電力を得るようになります。はやぶさ2は投下後、高度約3キロまで上昇し、マスコットと通信回線をつなぎ、得た情報を地球に送ります。マスコットに搭載されたリチウム一次電池の持続時間は16時間ほど。マスコットとはやぶさ2との通信はリュウグウの昼の間しかされませんが、夜になってもマスコットの観測は続きます。 そして、“リュウグウ時間”の2日目(sol 2)の昼に、はやぶさ2との通信が再び確立されると、マスコットは夜間の観測結果をはやぶさ2に送り、送り終えるとホッピングによって移動をします。ホップ後には何度かバウンドすると見込まれていますが、その動きが落ちついた後に、姿勢を修正し、はやぶさ2との通信をしながら観測をすることになります。電池の持続時間から考えると、マスコットは投下から同3日目(sol 3)の昼間までは作動しているはずなので、2日目の夜の観測結果の送信まで期待されています。 しかし、リュウグウの表面では電池が想定通りに持続するか分かりませんし、突発的なトラブルが発生する可能性もあるので、期待通りの観測結果が得られるかは不確定です。それでも、リュウグウに着陸できれば、マスコット2-1の2機の探査ロボに続く快挙ですし、リュウグウ上での初の本格的な科学観測となります。 特に、はやぶさ2や太陽電池で動くミネルバ2-1では観測できない夜間のリュウグウの状況を知ることができるのはとても貴重です。はやぶさ2は上空3キロの地点に留まるのは約24時間。マスコットの運用が終わると、再び上空20キロのホームポジションに戻ります。 マスコットの運用後は、いよいよ1回目のはやぶさ2自身の着地(タッチダウン)運用が本格的に始まります。9月11日から12日にかけて行われた1回目のリハーサルは、高度600メートルで中止されましたが、3キロ上空からの着地候補地点の画像を取得し、今後の計画に役立てます。 本番となる1回目の着地は、順調に進めば10月下旬に実施される予定です。これまでの運用で磨きをかけてきた、はやぶさ2の精密操作で、着地とサンプル採取まで無事に成功するように願ってやみません。 ◇ 日本時間の10月3日午前10時57分に、マスコットははやぶさ2から分離されました。マスコットから正常に電波が発信していることは確認されていて、送られてきたデータは神奈川・相模原市のはやぶさ2管制室を経由してドイツ・ケルンにあるマスコットの管制室に送られています。着陸の成否、マスコットの状況などは、日本時間の3日午後5時頃にDLRから発表される予定です。
------------------------------- ■荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年生まれ。科学ライター。「科学をわかりやすく伝える」をテーマに、宇宙論、宇宙開発をはじめ、幅広い分野で取材、執筆活動をおこなっている。主な著書は、『ニュートリノってナンダ?』(誠文堂新光社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『まんがでわかる超ひも理論』(SBクリエイティブ)など