上司から高すぎる目標を設定された時の対処法
■高い目標による利点と欠点 エベレストの登頂、月面着陸、私たちの想像を超えるAI(人工知能)技術の進歩。一見、不可能に思えるこれらの目標は、すべて達成されている。 このようなストレッチ目標は、個人と組織のモチベーションと成功を強力に促進することが広く認められている。目標設定に関する長年の研究で、より困難な目標が大きな努力と成果を引き出すことが確認されている一方で、あまり知られていない欠点も明らかになっている。ストレッチ目標はしばしば誤解され、誤用され、意図しない結果を招く。目標が適度にやりがいのあるものから、極度に困難なものに変化すると、モチベーションを低下させ、過剰なリスクテイクを促し、非倫理的な行動を悪化させるおそれがあるのだ。 こうした落とし穴があるにもかかわらず、ストレッチ目標は依然として企業生活において重要なものとされ、設定した目標と現実的に達成できる目標との間にストレスを誘発する齟齬を生じさせる。筆者はエグゼクティブコーチとして、非現実的な収益目標から製品発売の前倒し、急激な企業文化改革への期待まで、こうしたギャップが生まれる例を数多く見てきた。 高い目標を目指すことは非常に重要だが、不可能と思えることを上司に期待されたら、どうすればよいのだろうか。本稿では、そのような状況を乗り切る方法を解説する。 ■目標の背景を広く理解する 上司が非現実的な目標を与える理由はさまざまだ。無謀な野心を持っていて、「大きく、やりがいがあり、大胆な目標」という一般的な考え方を信奉しているのかもしれない。あるいは、上司は日々の業務から遠ざかっていて、その目標を達成するためのロジスティックスやプロセスに関する難しさを認識していないのかもしれない。または、目標が非現実的であることを認識しながらも、上層部や重要な顧客からのプレッシャーに直面しているかもしれない。 上司がどのように目標を導き出したかを理解することは、最善の道を決定するために不可欠だ。「どのような考えからこの目標設定に至ったのかを教えていただけますか」と尋ねれば、目標に至った根本的な前提やデータを理解し、その実現可能性を評価することができる。また、「組織や外部からのどのような圧力がこの目標を推進しているのですか」と尋ね、その目標が社内的な動機によるものなのか、外部のステークホルダーの影響によるものなのかを確認することもできる。最後に、上司にとって目標のどの点が最も重要かを評価するために、スケジュールと成功の定義、それらの測り方について尋ねる。 すぐに返答するのではなく、フォローアップのミーティングを求めるべきだ。たとえば、「この目標に見合うだけの熟慮を重ねたうえで、お返事したいと思います」「この目標の範囲と影響を深く理解するために、データを集める必要があります。その後でまたお話しできますか」などと伝える。 ■可能な解決策を想像する 実現できそうにない目標は、不公平感や怒りを覚えたり、当惑したり、不安を引き起こしたりする。結局のところ、目標を達成できなかったら、自分の評判やキャリアの機会、報酬に影響が出るのではないかと懸念しているのかもしれない。このような感情は自然なものだが、明晰で創造的な思考を妨げるおそれがある。 思考を「何を」から「どのように」にシフトして、問題解決能力を発揮し、潜在的な解決策を見つける。半年後、あるいは1年後に目標を達成したと想像し、「それを可能にするために、私は何をしたのか」と自問する。また、リバースブレインストーミングをし、目標を達成できないあらゆる方法を考えてみるのもよい。障害を明らかにし、それを克服するための解決策を思いつくこともある。さらに、目標を管理しやすいタスクやマイルストーンに分解することで、パズルのピースがどのように組み合わされるかが見えてくるかもしれない。 最後に、異なる視点を求めることだ。問題に近すぎて、あらゆる角度から見ることができない時がある。チームや同僚、メンターに相談すれば、あなたが考えもしなかった創造的な解決策を導き出せるかもしれない。