【昭和の青春的ホットハッチの世界】最後のルノー・スポールと寸止めゴルフGTI!
ホットハッチの行く末は、今や風前の灯
実用FFハッチバックに高性能エンジンを押し込んで、ときにスーパースポーツカーをも追い詰めるほどの速さを発揮……してきた『ホットハッチ』の行く末は、今や風前の灯といっていい。 【写真】最後のホットハッチたち?ルノー・メガーヌR.S.とフォルクスワーゲン・ゴルフGTI (55枚) 理由はいくつかある。厳しいメーカー別平均CO2排出(≒燃費)規制のもとでは、高性能エンジン車の販売台数はどんどん制限されて、高価格化せざるをえない。そこでは、ホットハッチのような庶民派スポーティカーは生き残りにくい。また、クルマの基本形態がクロスオーバーSUV的なものに移行しつつあり、ホットハッチ化に適したクルマ自体が、じわじわと減少している。 さらにいうと、ある意味で昭和の青春的な響きを持つホットハッチという名称に相応しいのは、FFであるべきと個人的には考える。しかし、今や2.0リッターエンジンでも400ps級をうたう時代。それをまともに走らせるには4WDが必須となる。実際、メルセデスやBMW、アウディというジャーマンスリーのCセグメントハッチバックの高性能モデルは4WDである。その意味でも『ホットハッチ』の未来が明るいとはいいにくい。 そんなホットハッチたちはこの10数年、スポーツカーの聖地である独ニュルブルクリンク北コースにおける『市販FF最速』の称号をめぐって、タイムアタック合戦を繰り広げてきた。その発端となったのは、2008年の初代メガーヌR.S.(ベースは2代目メガーヌ)の限定モデル『R26.R』によるタイムアタックだった。 そうしてルノーが仕かけた市販FF最速バトルには、その後、セアト・クプラ、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI、そして我が日本のホンダ・シビック・タイプRが参戦。毎年のようにタイムが塗り替えられていく時代が続いたのは、カーマニアなら良く知るとおりだ。
売り切った時点でルノー・スポール市販モデルの歴史も終了
そんな世界最速FFバトルの仕掛け人……ならぬ仕掛けグルマだったメガーヌR.S.は、2023年に最終生産モデルである『ウルティム』を発表。世界1976台の限定数を売り切った時点で、R.S.=ルノー・スポールの市販モデルの歴史も終了すると宣言した。ベースとなるメガーヌ自体も、本国では既に電気自動車(BEV)のクロスオーバーSUVに切り替わっており、直接的な後継機種も存在しないという。つまり、R.S.が長年築いてきたホットハッチの歴史にひとまず終止符が打たれる。 日本国内にもいまだ若干数の在庫がある(取材時)というウルティムだが、特別なのはボディデカールやホイール、専用バッジなどで、ハードウエアや乗り味は、以前から存在するトロフィーそのものだ。1.8リッター直噴ターボが供出する300ps/420Nm(6MTは400Nm)を、フロントの独立キングピン式ストラットと後輪操舵機構(4コントロール)を備えたトーションビームで受け止める。 独自の4コントロールの効能を『派手さや空力や電子制御に頼らずとも、しなやかなフットワークと高度なコーナリング性能を両立できる』とルノー・スポールは説明する。それでも、後述するゴルフGTIと比較すると、乗り心地は正直に硬めと評さざるをえない。また、4コントロールは、後輪が低速では前輪と逆位相に切れて回頭性を高めて、高速では逆に前輪と同位相となって安定性を引き上げる。それを自在に操るには、速度によってステアリング反応が変化するクセを攻略する必要がある。 しかし、その独特のクセをつかんでしまえば、その走りはまさに以心伝心。最初は硬く感じたサスペンションも、走りに熱がこもって、クルマへの入力が高まるほど、イキイキとストロークしてくれる。1.8リッターという小さめの排気量もあってか、低速トルクは意外に細めだが、かわりに回転が上がるほど乗っていくタイプで、これも昔ながらの高性能エンジンを想起させて、逆に気持ちいい。