欧州経済の大黒柱「ドイツ経済」がトランプ復活でさらに悪化する3つの理由、2期目のほうがより”危険”だ
3つ目のリスクは、エネルギー、気候変動リスクだ。今回、COP29を欠席したショルツ首相だが、ドイツは原発ゼロにこだわり、2023年に温室効果ガスの排出量の多い石炭発電を残し、原発ゼロを達成。ロシアからの天然ガスが途絶える中、液化天然ガス(LNG)輸入のためのドイツ初の浮体式LNG基地建設を急いだ。 重厚長大産業の比率の高いドイツでは、生産に必要なエネルギー需要が高く、エネルギー価格は産業を直撃する。石油、天然ガスの採掘を奨励するトランプ政権は、ヨーロッパがアメリカ産天然ガスを買うよう圧力をかけてくることが予想され、これにドイツがどう対応するのかは見えない。
さらに、トランプ氏は過去に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を離脱しており、第2次政権でも離脱する可能性が取り沙汰されている。こうした中、今回のCOP29でテーマとなっている先進国から途上国に出す気候対策資金の1000億ドルからの上積み幅がドイツの頭痛の種となる可能性が高い。アメリカがパリ協定から離脱すれば、ドイツの負担率は確実に上昇すると見られているからだ。 さらに社会的リスクとしては、移民・難民問題がある。「ドイツのための選択肢(AfD)」支持者の最大の争点は移民問題、特に難民などの増加による治安悪化問題で、これはアメリカの大統領選でも争点となった。トランプ再選はAfDを始め、右派ポピュリズム政党を勢いづかせ、社会リスクを拡大している。
■トランプ再選の「プラス効果」も? 一方、ドイツでビジネスを展開する外国企業の中には意外なトランプ効果が追い風になり、ドイツ経済が閉塞感から抜け出せる可能性を指摘する声もある。 ドイツが、「ヨーロッパ大陸の自主防衛」「ロシアとウクライナの停戦と和平協定」のアメリカからの一方的な押し付けに加え、「報復的な貿易戦争による損害」「トランプ氏によるヨーロッパの極右への接近」などの新たな現実に対処しなければならなくなる中、アメリカ依存を捨てることで平和ボケから脱し、官僚主義・社会主義からの改革に着手できる可能性がある、とヨーロッパ版のポリティコも指摘している。
不況に陥っているドイツ経済はトランプ再選でどちらに転ぶだろうか。
安部 雅延 :国際ジャーナリスト(フランス在住)