デジタル化進まぬ「博物館」 学芸員に専門人材少なく
■デジタルアーカイブ人材、活躍の幅は大きく
社会の急速なデジタル化に伴いデジタルアーカイブ人材の需要は増えつつあり、博物館以外でも活躍の幅は広がってきている。
この分野の人材育成に取り組むIT企業「誠勝(せいしょう)」(東京都)は11月、奈良女子大などを運営する奈良国立大学機構や地域と連携し、デジタル知識を有する学芸員などの人文・社会科学系の専門人材を育成する枠組みを設置。博物館だけでなく自治体や大学、民間企業など幅広い分野で資料のデジタル保存を扱える人材の育成を狙う。
同社は9月、デジタルアーカイブの可能性について大学生たちが学ぶインターンシップを開催。大学生たちは、人工知能(AI)や機械学習を使って過去の偉人の文献からあらすじや特徴的なフレーズを抽出し、それらの情報を参考に偉人の魅力を伝える展示方法を発表した。
文化庁によると、近年の学芸員資格取得者は1大学あたり25人前後で推移するものの、博物館関連施設に就職できた学生は1大学で平均1人に達しないなど、学芸員の有資格者のほとんどが関連施設で働けていないのが現状だ。一方で、デジタルアーカイブの関連業務が拡大することで、学芸員有資格者が、博物館に就職できなくとも、同様の業務に携われることができるなど、活躍の幅が広がる可能性がある。
博物館でも、増え続ける収蔵品への対応などでデジタルアーカイブは喫緊の課題だ。奈良県立民俗博物館(奈良県大和郡山市)では、昭和49年の開館時は約7600点だった収蔵品が平成29年には約4万5千点まで増加し、保管スペースが足りなくなっている。県は収蔵品のデジタルアーカイブを進めるとともに、保存しないと判断した資料の一部は現物の廃棄や除籍も検討している。
■「デジタル化、現物では気付かなかった発見も」 奈良大学文学部・光石亜由美教授(日本近大文学)
デジタルアーカイブ化した資料は、高倍率での拡大や色彩の補正、モノクロ写真のカラー化なども可能で、現物では気付かなかった発見につながるという期待もある。またインターネット上で公開することで広く市民や研究者らが閲覧でき、研究の発展にも貢献できる。