V字回復のカギは“若手の躍動”!オフィスのフリーアドレス化を効果的に活用するポイントとは
新型コロナウイルスの猛威が落ち着き、以前のような生活が戻ってきた。しかし、多くの企業が業績の回復には苦労している。イベントの企画・運営・制作にかかわる企業のバンセイ株式会社(以下、バンセイ)はコロナ禍で大きな打撃を受けた企業のひとつだ。しかし、コロナ後の2023年には業績をV字回復させた。その手法のひとつは「オフィスのフリーアドレス化」である。 【写真】効果的なフリーアドレスの活用方法を検討した結果、生産性がアップ 多数の企業が生産性アップを目的にオフィスのフリーアドレス化を行うが、部署間のやり取りが煩雑になりうまく回らなかったり、結局固定の位置が定着してしまったりして、フリーアドレスの意味が消失してしまうということもあるのではないだろうか。なかにはもとの固定デスクに戻してしまうこともあるという。 オフィスのフリーアドレス化を成功させ、業績のV字回復を果たしたバンセイの代表取締役社長上田浩太郎さんに効果的なフリーアドレスの方法やポイントについて聞いた。 ■新型コロナウイルスの打撃からの回復 1943年に創業したバンセイは、もともとはゼネコンをおもな業務としていたが、1973年にテレビが普及しNHKをはじめとした民放各局と仕事をすることになる。カメラをハイアングルから撮るための機材やイベントや収録で必要となる機材の提供などを行っていたそう。 現在では全国各地での野球やサッカーなどのスポーツイベントも含め、さまざまなイベントに対応できるようにベース基地を設置し、機材を管理している。とりわけ、ゴルフトーナメントではギャラリースペースや仮設トイレの設置などトーナメントの運営に関わることまで包括的に行っているのだそう。 しかし、新型コロナウイルスの影響により、さまざまなイベントやスポーツが中止あるいは無観客開催、オンライン配信などに切り替えられていくと、その影響で2020年から2022年までイベント関連の仕事がなくなり、全体の売り上げが通常時の8割減となるほどの大打撃を受けたという。 「世の中が人の集まることを避けていた風潮でした。外向きに何かするというのは難しい状況でしたので、内向きの改革が必要と考えました。まずは若手の意見を聞きとってみると、ペーパーレス、リモートワーク、フリーアドレスなどさまざまな意見が集まりました。情報に敏感な若手社員が同世代で情報共有をしていたんですね。早速2020年からフリーアドレスを実施することにしました」 このときのフリーアドレス化というのが、各事業部が別フロアに点在していたのを事業部関係なく、入り乱れるような状況にしたのだそう。誰がどこにいるのかわかるように管理システムを導入することにし、自由に社内を動き回れるようにしたのだとか。 加えて、ベテラン・中堅・若手それぞれが混ざり合うようチーム制を導入して社内の活性化を目指したそう。こうすることで本来だと事業部ごとのタテの繋がりしか成立しづらいところからヨコの繋がりも生まれて、働きやすさにも繋がったのだという。 ■フリーアドレスの落とし穴 一方、当時は多くの企業がフリーアドレス化を導入し、生産性を上げようとしたものの、結局固定の場所ができてしまったり、元のオフィスに戻してしまったりするということがあったようだ。バンセイの場合も、フリーアドレス化の結果、うまくいかないことも浮上してきたのだという。 「管理システムを導入したものの、事業部長たちから『部下がどこにいるのか把握しづらい』という声が上がってきました。そこで、事業部ごとのフリーアドレス化に切り替えることにしました。ほかにも立って仕事ができるようなデスクを設置したり、集中したいときのための個室もつくったりしました。最近はいろいろな場所で仕事をする人が多いので、自分がやりやすい場所を選んでもらってマンネリを防ぐようにしています」 規律はありつつも自由度を高くして「若手の躍動」を後押ししたのだという。バンセイでは毎年新卒採用を行っており、ここ5年で若手社員は30人と全体の3割を占めているそう。そのため、若手の戦力は非常に重要視しているのだという。その一方で上長教育にも注力しており、パワハラ・セクハラを起こさせないように同僚、部下による360度評価を採用。技術や経験の豊富なベテランも重宝しつつ、若い世代が働きやすい環境づくりをしているのだという。 「とはいえフリーアドレス化を実行した当初は中堅・ベテラン社員も戸惑いや不安もあったようです。慣れないデスクでの作業は、環境の変化もあり受け入れられない社員も少々見受けられました。しかし時間の経過とともに環境にも慣れ、若手やベテラン社員が1カ所に固まることもなく活気が出てきたように感じます」 ベテラン・中堅社員からは「普段、あまり接点のなかった若手社員ともコミュニケーションを取れて良かった」、「自分にない技術を席の近い経験豊富なベテラン社員からわかりやすく説明を受けるケースが増えて良かった」などの声が上がるようになっていき、フリーアドレスを導入してプラス面が多かったと上田さんは語る。現在ではまったく違和感なく全社員がいきいきと仕事に取り組んでいるという。 「中小企業のジレンマだと思うのですが、人材不足に陥るとベテランが多く残ります。そうなると空気が合わないなどの理由で若手が定着しづらくなります。すると、企業としての成長が伸び悩みます。こうしたことを起こさないような職場づくりが重要と考えております。結果として、コロナ後は離職率がコロナ前よりも下がっており、若い世代が働きやすい環境づくりができているのではないかと感じています」 なんとなくフリーアドレスを取り入れるのではなく、「若手社員の働きやすさ」という目的を明確にし、デメリットに対する改善策を検討しながら実施したことで、コロナ後の売り上げもV字回復へと至ったという。「生産性が上がりそうだから」「流行だから」といった曖昧な目的で取り入れるのではなく、社内状況に応じた設置方法や明確な目的を設定することが大切なのだろう。 ■裏方の想いを知ってほしい…業界全体をアピール コロナ禍の終息により、国内では観光業やイベント業が急激に盛り上がっており、人手を必要としている。バンセイでもその変化を感じているという。そこで、このような裏方の仕事というものをもっと知ってもらおうと考え、近年は広報活動に力を入れているのだという。 「裏方の仕事なので、どうしても知っているという人は少ないです。私たちのような業種を分類するとディスプレイ業というジャンルに入るんですが、百貨店とかのディスプレイとかと同じなんです。そういう細かく分類するということが難しい業種でもあり、きっかけがなければ知らずに生きていくことになりそうですよね。そういう仕事があるんだということに少しでも興味を持ってもらいたいんです」 バンセイも所属しているという「東京ディスプレイ協同組合」はディスプレイに関わる企業の業界で、今年60周年を迎えた。周年を記念して、9月27日・28日に東京ミッドタウン日比谷で「超・文化祭」を開催するなど、業界全体として活動内容などの情報を発信していきたいと考えているようだ。 上田さんは「裏方がどんな想いを持っているのかということも広めていきたいと思いますし、そうしたことに就職を控える学生さんにも興味を持ってもらいたいです。『こんな仕事があるんだ』と知ってほしいんです」とその想いを語った。 企業の成長にも関わる若い世代のパワーを大切にしつつ、社員全員が働きやすい環境を整えるためのオフィスづくりとしてフリーアドレスが最適な方法だったのかもしれない。バンセイのように明確な目的を持つことがフリーアドレスを成功させるカギとなるのだろう。 文・取材=織田繭(にげば企画)