ボルボ、フォードが次々とEV戦略を転換する中、なぜ日系メーカーは「EV用電池」の投資を加速させるのか?
■ 経済産業省主導で日本の電池戦略が加速 中国がEVで有利な展開をしているのは、国家が多大な補助金を供給してEVメーカーの多大な先行赤字を帳消しにし、EV用のリチウムイオン電池で高いシェアを確保したからだ。EVにとって電池は最重要部品の一つであり、ここでのビハインドはEVでの敗退を意味する。 EV用電池の生産は、中国と韓国のメーカーが計約9割の世界シェアを握っている。長期的なEVシフトを見据え、日本国内で安定供給できる生産体制の構築が課題であったが、日本政府は2022年に「蓄電池産業戦略」を策定した。 また、経済安全保障推進法に基づく、蓄電池や半導体といった重要物資に対する補助金は2023年度から開始しており、これまでに本田技研工業(ホンダ)と電池大手ジーエス・ユアサ コーポレーションの工場に約1600億円、トヨタに約1200億円の補助を決めている。 これに加えて、経済産業省は2024年9月6日に、経済安全保障推進法に基づく蓄電池の生産強化に対する補助金の交付対象認定を公表した。対象は自動車4社(トヨタ、日産自動車[日産]、スバル、マツダ)と、部品や製造装置メーカーなどによる計12事業。 これらの投資額は計1兆円超となり、補助額は計3500億円になる。日本政府は2030年までに、国内の電池生産能力を150ギガワット時に高める目標を掲げているが、今回の認定事業で、生産能力は約120ギガワット時となる見通しだ。 トヨタは次世代EV用電池を兵庫と福岡で2026年以降に生産する。プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)が兵庫県、プライムアースEVエナジー(PEVE)が福岡県で、それぞれ2026年以降に開始。全固体電池の負極材は兵庫県で生産。年間生産能力は合計で9ギガワット時を計画。EVの航続距離1000kmを実現する次世代「ハイパフォーマンス電池」と全固体電池の投資額は2450億円、助成額は最大で856億円となっている。 日産は軽EV向けのリン酸鉄リチウム(LFP)電池の工場を福岡県に新設し、2028年度に稼働する。事業総額は1533億円で、生産能力は約5ギガワット時。既存のLFP電池と異なる構造を採用し、現行の軽EV「サクラ」と比べて電池のコストを3割削減する。事業総額のうち最大557億円の助成を経済産業省から受ける。 スバルは2030年に世界販売台数120万台のうち、半数をEVとする方針を掲げており、電池確保に向けてパナソニック エナジー(以下パナエナジー)と協業を開始。協業では、2027年度からパナエナジーの住之江工場(大阪市住之江区)、2028年度からは新設する群馬県大泉町内の工場で生産された電池をスバルのEVに搭載する計画だ。新工場には総額約4630億円を投じ、生産能力は2030年末で年間16ギガワット時になる。 マツダは山口県に初の電池パックモジュール工場を新設すると発表。パナエナジーが大阪府の電池セル工場の生産能力をマツダ向けに増強し、マツダの電池工場にセルを供給する。 投資総額は約833億円。能力増強後の年間生産能力は10ギガワット時で、生産した電池は2027年をめどに量産車に搭載する。セルはパナエナジーの住之江工場やパナソニック エナジー貝塚から調達。2025年にパナエナジーがサンプルの生産を、2027年から量産車向けの電池生産を開始する。パナエナジーは、現行の生産能力に加えて、新たに6.5ギガワット時分を増強する。投資総額のうち約3分の1に当たる283億円を経済産業省が助成する。