[MOM4929]実践学園DF美濃島想太(3年)_3年前の全国決勝はメンバー外でスタンド観戦。その日と同じ西が丘のピッチで成長を証明する決勝弾!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [11.10 選手権東京都予選Bブロック準決勝 実践学園高 1-0 駒澤大高 味の素フィールド西が丘] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 日本一を懸けた全国大会のファイナルでは試合のメンバーに入ることも叶わず、ただただピッチの外から、綺麗な緑の芝生を見つめていた。あれから3年。ここまで厳しいトレーニングと必死に向き合い、ようやく帰ってきたこの舞台。今の自分が持っているものは、全部ここで出し切ってやる。 「泣きそうになるぐらい本当に嬉しかったですね。今までのサッカー人生ではあそこまで喜べるようなシーンはなかなかなかったんですけど、高校に入ってまたサッカー観が変わるような、新しい景色を見られて良かったです」。 味わってきたいくつもの悔しい想いを糧に、ここまで前へと進み続けてきた実践学園高の大型センターバック。DF美濃島想太(3年=FC LAVIDA出身)がヘディングで沈めた意地のゴールが、チームを決勝へと鮮やかに導いた。 ファイナル進出を巡る重要なゲーム。高校選手権東京都予選Bブロック準決勝。美濃島はキャプテンのDF岸誉道(3年)と最終ラインの中央を預かるセンターバックとして、駒澤大高と対峙する一戦のスタメンリストに名前を書き込まれる。 この会場には浅からぬ因縁があった。2021年12月。埼玉の強豪クラブチームとして知られるFC LAVIDAは、『高円宮杯 JFA 第33回全日本U-15サッカー選手権大会』で決勝まで進出。最後はサガン鳥栖U-15に敗れたものの、全国準優勝に輝く。だが、当時は中学3年生でFC LAVIDAの大会登録メンバーに名を連ねていた美濃島は、決勝のベンチに入ることができず、西が丘のスタンドからチームメイトが敗れる姿を眺めることしかできなかった。 もともとは別の強豪校への進学を考えていたものの、その希望も思うようには進まず、次の選択肢を模索していたタイミングで、その年のインターハイで全国出場を果たしていた実践学園が候補として浮上。何とかセレクションに合格して、この学校の門を叩いた。 「自分は中学時代を振り返っても本当に何もできなくて、悔しい想いを持ちながら実践学園に入ってきたので、まずはこのピッチに立てたことが良かったと思います」。3年越しで足を踏み入れることを許された西が丘のピッチ。モチベーションは十分過ぎるほどにみなぎっていた。 まず考えるのはもちろん守備。岸と連携を取りながら、後ろの安定を図っていく。ただ、もともとMF登録であることからもわかるように、持ち味は中学時代から磨いてきたボール感覚。「後ろから1枚剥がして運べた時にはビッグチャンスになりますし、今日も2回ぐらいそういうシーンがあったと思うんですけど、ああいうところで見せるプレーが相手にとっては脅威になっているのかなと思います」と内田尊久監督も言及したように、時折繰り出す攻撃参加はチームに大きなアクセントをもたらしていく。 拮抗した試合はスコアレスのままで終盤に突入。ヒリヒリした展開の中で、その時はやってきた。後半29分。実践学園が右サイドで得たCK。「相手の駒澤もセットプレーが強みということでしたけど、自分たちも昨日はいつもより長くセットプレーも練習して、新しいやり方も考えていました」(美濃島)。勝負どころのセットプレー。選手たちの狙いは統一される。 DF峰尾燎太(3年)が丁寧に左足で蹴ったボールが中央に届くと、夢中で飛び込んだ落下点。頭に確かな感触が残る。視界が捉えたのはゴールネットに到達したボールと、笑顔で駆け寄ってくるチームメイト。美濃島は気付けば無意識のうちに、仲間の元へ走り出していた。 「これまでなかなか自分はセットプレーで決められなくて、スケさん(鈴木佑輔コーチ)にも(内田)監督にも期待されていたのに、なかなか結果を出せなかったので、この大一番で点を決められたことで、監督やコーチへの感謝を一番に思いました」。出迎えてくれた鈴木コーチと内田監督とハイタッチ。実践学園は終盤に入って1点のアドバンテージを引き寄せる。 印象的なシーンがあった。後半もアディショナルタイムに差し掛かった時間帯。右サイドで相手のドリブルを、岸が果敢なタックルでストップすると、実践学園の選手たちはキャプテンの気合十分のプレーに対して、美濃島を筆頭に大きなガッツポーズを繰り出す。 「1つ1つのプレーにこだわることは考えていましたし、何気ないプレーが試合を動かすということはハーフタイムにも言われていて、ああいう何気ないプレーでも全員で喜べている時はチームの流れが良い時なので、それが出た感じですね」(美濃島)。チーム全員のテンションとエネルギーがグラウンドを包み込んでいく。 4分間のアディショナルタイムが消え去ると、タイムアップのホイッスルが鳴り響く。「もう叫ぶぐらい嬉しかったですね。決勝で2年前に自分がスタンドから見ていた駒沢のピッチに立てることも嬉しくて、本当に良かったです」。因縁の西が丘のピッチでゴールを記録し、勝利を味わった美濃島の表情にも、大きな笑顔が広がった。 FC LAVIDA時代のチームメイトが多数在籍している昌平高は、選手権埼玉県予選の準々決勝で敗退。日ごろから連絡を取り合う友人の存在も思い浮かべながら、美濃島はさらなる決意も定めている。「自分は選手権で昌平と対戦して、LAVIDA時代の監督やコーチに成長した姿を見せたかったんですけど、それはできなくなったので、昌平のLAVIDA出身の選手たちの想いも背負って戦っていきたいと思います」。 1週間後に控えているのは、全国切符を巡る東京決勝。この試合に勝つためにみんなで努力を続けてきた。美濃島は2年前のファイナルでも、駒沢のスタンドから先輩たちが敗れる姿を見ていただけに、ここまで来たらもう最高の結果を手繰り寄せるのみだ。「まだ自分たちは何も成し遂げていなくて、やっとスタートラインに立っただけで、まだ誰もこの結果に満足していないですし、まだ誰もこれで終わるつもりはないと思うので、しっかりそういう気持ちを前面に出して戦いたいと思います」。 実践学園で3年間を掛けて積み上げてきたものを、すべて出し尽くすために用意された正真正銘の集大成であり、成長の証を多くの人に披露するためのビッグマッチ。美濃島想太は決勝の舞台でも、さらなる『新しい景色』へみんなでたどり着くために、このチームに必要な自分の色を、ピッチの上でしなやかに描き続ける。 (取材・文 土屋雅史)