球状星団での中間質量ブラックホールの誕生をスパコンで予測
このような大質量の恒星は表面からガスを放出することで著しく質量が減っていきます(この現象は星風と呼ばれます)。しかし、藤井准教授らの計算では、この星風の効果を加味しても、シミュレーション中で現れた大質量の恒星は超新星爆発に至るまでに太陽の3400倍の質量を残しました。この恒星質量のほとんどはそのままブラックホールの質量になると考えられ、彼女らはこの結果から、誕生時から太陽の1000倍以上の質量を持つようなブラックホールの形成は可能であると結論しています。
■超大質量ブラックホールの「種」になり得るか?
今回の藤井准教授の研究のような、質量が太陽の数百倍から数十万倍程度までのブラックホールは「中間質量ブラックホール」と呼ばれますが、これらは不思議なことに数えるほどしか見つかっていません。しかし、超大質量ブラックホールが多くの銀河で見つかっている以上、その成長途中であるはず中間質量ブラックホールはより多く見つかっても不思議ではないはずです。 これまでの研究において、中間質量ブラックホールは銀河系の球状星団の中に存在するのではないかとする観測結果も報告されていましたが、決定的な証拠に欠いていました。今回の藤井准教授の研究はこうした観測結果に対して肯定的な予測をしていると言えます。 ところで、超大質量ブラックホールはビッグバンからわずか7億年しか経っていない時代の銀河にも存在が確認されています(現代はビッグバンから約137億年後)。しかし、わずか7億年の間にどうやってブラックホールを「超大質量」まで成長させるのかは、現代の天文学においても明らかになってはいません。 今回の藤井准教授の研究で想定された球状星団とは、ビッグバン直後の時代に形成された非常に古い星の集団です。彼女らのシミュレーションが示すように、形成期の球状星団の中に中間質量ブラックホールがあるとするならば、これらが銀河中心に運ばれ、何らかのメカニズムによってより大質量に成長し、超大質量ブラックホールへと進化していくのかもしれません。 Source Fujii et al. (2024) – “Simulations predict intermediate-mass black hole formation in globular clusters” (Science, arXiv)
文/井上茂樹 編集/sorae編集部