投資すべきは口の中。「口腔ケア」が全身の健康や、家計にまで影響するワケ(専門家が監修)
病院=具合が悪くなったら行く場所。という考えは、こと歯科に関しては当てはまらない。定期的なケアで口内のみならずカラダ全体の健康が保たれ、結果的に支払う医療費も安くなるからだ。残っている歯の数で5大死因や認知症のリスクが上がるなんて事実を知れば、ないがしろにはできないはず。[取材協力/栗林佑太郎(徳真会グループ診療部門統括医)]
定期的な口腔ケアで年間医療費が15万円浮く
全身麻酔をかけるような大きな手術をする際、事前に歯や歯茎などの口腔ケアを行うのが当たり前になってきた。口腔には無数の細菌が棲み付き、それらの細菌が手術に悪影響を与えたり、術後の経過を悪くしたりすることも考えられるからだ。 たとえ手術をしなくても、口腔ケアを怠ると健康を害することも。 「日本人の5大死因は、がん、心臓病、脳卒中、肺炎、老衰。そのいずれにも、口腔内の疾患が関わっているのです」(徳真会グループ診療部門の栗林佑太郎統括医) なかでも厄介なのは、歯周病菌による歯周病。5大死因の背景は、慢性的な炎症。歯周病で炎症が続くと5大死因のリスクが上がるのだ。 また、咀嚼力が低下して食事が満足に摂れなくなると、栄養とエネルギーの不足で全身の機能がダウン。元気に生活できなくなる「オーラルフレイル」に陥る危険もある。 定期的に口腔ケアする人は、65歳以降ではケアしない人と比べて、年間医療費が15万円安いというデータもある。 口腔ケアこそ、健康寿命を延ばす最強の投資先だ。
口腔ケアで年間医療費が下がる
35歳以上の組合員5万2596人の医療費と受診歴データを分析。歯科医院で年2回以上、定期ケアを行っている602人を抽出し、総医療費を調べた。48歳を境に総医療費が下がり、65歳でその差は年間15万円に。
絶対残したいのは20本。でも70歳で16本に留まる
成人の歯は28本(親知らずを入れると32本)。このうち自前の歯が最低20本残っていれば、食べ物が何でも自在に咀嚼できて、ほぼほぼ健全な食生活が送れると評価されている。 このことから1989年から日本で展開されているのが、80歳になっても自前の歯を20本以上残そうという「8020(ハチマルニイマル)運動」だ。 厚生労働省の調査では、80歳の約50%が残存歯20本以上とされるが、栗林さんによると、このデータにはどうやら疑問点も多いらしい。 「この割合は75歳以上85歳未満のデータから推計したもので、80歳を実際に調べたものではありません。全国の歯科大学病院の患者を調べたより信頼性の高いデータでは、80歳で残存歯20本以上の人は10%未満と考えられます」 日本では60歳までは残存歯数は平均20本以上だが、それ以降は急激に歯を失う人が増える。70歳時点の残存歯数を調べた研究でも(下参照)、日本人は約16本で、20本を下回っている。 残存歯が20本以上ないと認知症やオーラルフレイルの危険度が上がる。成人が歯を失う理由の30%以上は歯周病。残存歯が少ない人は背景に歯周病菌による炎症があり、5大死因のリスクも上がっていることも十分考えられるのだ。