振付家、下島礼紗が明かす『黙れ、子宮』再創作への意欲
2024年度メインシーズン「某(なにがし)」を展開中のKAAT神奈川芸術劇場で、12月13日(金)~15日(日)、ダンスカンパニー・ケダゴロを率いる下島礼紗による新作ダンス『黙れ、子宮』が上演される。初演は2021年。韓国国立現代舞踊団の委嘱作だ。その後さらにキャリアを重ねた下島が、これを進化させ、再創作する。リモートでのインタビューに応えた彼女は、チャーミングな笑顔と真っ直ぐな瞳で、作品への思いを語った。 『黙れ、子宮』の上演を控える下島礼紗
身体の躍動には、何かを訴えかける力がある
『黙れ、子宮』。なかなか刺激的かつ挑発的なタイトルだが、そこで彼女が対峙したのは、ほかならぬ自身の身体のことだ。まず尋ねたのは、創作に至る経緯と、「子宮」に向き合うことになったきっかけについて──。 「自分に子宮がないとわかったのは18歳のときです。そこからダンサーの道を目指し始めたのですが、いつか、そのことを作品にしようと思っていました。ただ、振付家として、ダンサーとして、これを表に出すのはある意味ズルいと感じてもいて、なかなか出せずにいました。それが、2020年に韓国国立現代舞踊団から『My family are off-limits(家族は立ち入り禁止)』というテーマで作品を創ってほしいというお話をいただいて、ふと、『いまなんじゃないかな』て思ったんです。韓国で、同じ文化の背景を持たない国で作品を創るということになったとき、何かすべての条件が整った気がして、ここで一発勝負をかけてみようかなと。何かこう、スッといったんですよね」 自分の身体の問題に否応なく向き合うことになって10年。長く心に秘めていたテーマをついに形にすることになったのは、自身初の国際共同制作の場だ。が、時はコロナ禍真っ只中。創作は2カ月間のオンラインでの対話からスタートし、韓国入りした後も2週間の隔離期間を過ごさねばならなかった。 「そんな中、一人のダンサーに年齢を聞いたら、私と同じ1992年生まれなのに、1歳、違うんです。韓国の方たちは皆さん、数え年をとても大事にしていた。お母さんの身体の中から外に出るまで、0から1とカウントする、人間が人間になる瞬間をすごく大事にしているように感じたし、受精卵ができた段階で、もう人間として認められているってことですよね。もしかしたら、自分も胎児の時に既に自分の意思があったんじゃないかなと思ったんです」 「自分に子宮がないのは、子宮が形成されなかったのではなく、自分の意志で取り外してきたから」という考えに至った下島。異国の地での創作が、いよいよ動き出す。 「『家族は立ち入り禁止』というテーマを与えられたとき、子宮のことと同時に、自分の父のことをすごく考えました。いわゆるドメスティックバイオレンスの結構酷い父親。いまとなっては笑い話ですが、この作品で子宮を扱おうと思ったのは、もう二度とお父さんのDNAをこの世に産み出さないとか、父への復讐とか──そんなことが頭をよぎったから。あっ、悲しい話と思われてしまうかな(笑)」 DVとか復讐とか、悲壮に感じられそうな言葉が、すこぶる朗らかに響く。二人の韓国人ダンサーも、行方不明だった父や、次々と新しい夫を連れてくる母のことを話してくれた。 「人生って、何か型にはまった生き方だけじゃない。理屈では捉えきれない世界の形、それを表現できるのはやっぱりダンスなんじゃないかと、改めて希望を持ったんです。ダンスなんて趣味でしょうと言われてしまうけど、身体の躍動には何かを訴えかける力があるんじゃないかって! それこそ<身体>というのは、人類が誕生した時からDNAが繋がって今此処にある。身体が持つ人類の記憶は、思考(脳みそで考えること)を超越しているんじゃないかと思うんです」