旅行ガイド『るるぶ』、安心の羅針盤 初心者向けに軸足 JTBパブリッシング 『るるぶ』(上)
ビギナー旅行者向けに「王道バランス」
広く知られた旅行ガイドブックには、『まっぷる』(昭文社)や『地球の歩き方』(地球の歩き方)などがある。買う側は自分の旅行目的や求める現地情報などに応じて、ガイドブックを選ぶ格好になる。他の旅行ガイドブックとの違いを、永島氏は「あまり旅慣れていない初心者を、主な読者とイメージしている点」と説明する。地域に関係なく、『るるぶ』を貫く基本スタンスだ。 長年にわたって膨大な情報を集めてきただけに、マニアックな事柄を盛り込んで分厚く作るのは難しくなさそうだが、あえてビギナー向けに事項を取捨選択している。初めて訪れる、土地勘の乏しい旅人にとって、多くて細かい情報はかえって戸惑いを生みかねない。多くの人が関心を持ちやすい「王道的なバランスを意識している」(永島氏)。 現地で役立つ道しるべのような頼りがいも『るるぶ』の強みだ。パラパラとページをめくるうちに行きたいスポットや食べたい料理が自然と見つかるのは偶然ではない。余計な事柄を省いて、関心の高そうな点を選んであるからこその自然な使い勝手なのだ。 例えば、北陸新幹線の金沢―敦賀間の延伸開通で関心を集めた『るるぶ福井 恐竜博物館 越前 芦原 敦賀'24』は128ページの構成だ。一方、夏に人気が高まる『るるぶ北海道'25』は260ページ。大半のエリアは100~200ページに収められ、欲しい情報に手早くアクセスできる。写真が多い構成も読み手を飽きさせない。 各エリア版の多くで巻頭近くのページに載せてある「1泊2日」や「2泊3日」のモデルプランは、初心者に寄り添うアプローチの好例だ。見逃したくない人気スポットや写真映えのする名所を過不足なく盛り込んである。予備知識を持たずに自己流で旅程を組んでしまう失敗を避けるための心配りだ。 距離や交通手段がつかめていないと、実際には移動が難しい、無理なプランを組んでしまいがちだ。「モデルプランを参考に自分好みにカスタマイズしてもらえば、無理のない旅程を組み立てられる」(永島氏) 標準タイプの判型は横210mm×縦257mmのAB判だ。ワイド判とも呼ばれる、真四角に近いサイズで、たっぷりの写真に目を走らせやすい。2015年からは一回り小さいB5変型判(185mm×226mm)の「ちいサイズ」が登場した。さらに、2017年には『超ちいサイズ』(147mm×180mm)がデビュー。旅先での持ち歩きに便利でありながら、情報量は通常サイズと同じだ。 毎年、改訂版を出すにあたって悩ましいのは、名所旧跡は変化が起きにくいところだ。前回版と同じ中身では、改訂版を出す意味がない。「新スポットのような旬の項目と、定番的な項目のバランスが肝心」(永島氏)という。 ベーシックで必須の見どころをしっかりカバーしているという安心感は『るるぶ』らしさの一例だろう。「読者からの信頼感に応えるという気持ちは強い」(永島氏)。一方、その年の担当者ごとに「本人の色が出ることは珍しくない」(永島氏)。もともと雑誌から始まっているだけに、担当編集者の自由度は割と大きく、雑誌的な見せ方のような誌面づくりに持ち味が表れるそうだ。