これから野党に問われる「3つの力」:田坂広志の「深き思索、静かな気づき」
第3は「政党の自己改革力」
かつてフランスで、フランソワ・ミッテラン大統領が、議会の多数派を野党に握られた「保革共存」(コアビタシオン)の時代を経験したが、成熟した妥協力を発揮し、この時期を乗り越え、長期政権を築いた。その経験を学ぶべきであろう。 第3は「政党の自己改革力」。世界の情勢が劇的に変化し、社会の状況も急速に変わっている時代、政党も、常に自己改革を行い、新たな政党へと脱皮していかなければならない。 しかし、この「自己改革力」の根底にあるべきは、「自己反省力」。ひとたび政権を担ったならば、すべてが上手くいくわけではない。国民の前で、自身の党の政策や判断の誤りを謙虚に認め、それを改める姿を真摯に示すべきである。実は、その姿こそが、国民からの信頼となる。 だが、我が国の政治家は、口では「国民の審判を厳粛に受け止め」と語るが、その後、具体的な自己改革を語り、実行することが無い。 人間学の世界では「反省が抽象的な人間は、成長しない」という名言があるが、これは政党も政治家も同じであろう。 かつて英国で、トニー・ブレアが、18年間、野党の座に甘んじていた労働党を改革し、社会主義的政策を修正し、自由主義的政策を大胆に取り入れた「ニュー・レイバー」(新たな労働党)を掲げ、10年の長期政権を築いた。野党は、この経験からも学ぶべきであろう。 以上述べた「3つの力」は、いわゆる「政権担当能力」の核心をなすものであるが、実は、これらの力の欠如が指摘されるのは、野党だけではない。 現在の与党にも、この「3つの力」、特に「自己反省力」と「自己改革力」が欠如していた。 そのことが、今回の敗北の真の原因であろう。 田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8,500名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp
田坂 広志