ナイキ、ニューバランスのスニーカーが突如壊れる「加水分解」。対策は?
こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。 スニーカーの加水分解をご存じでしょうか。靴底が、ある瞬間にまるで腐ったかのように一気に崩れて、履けなくなる現象です。とくに、クッション性を求めるスニーカーや、高価格の商品に起きるので、トラウマになっている方もいるでしょう。 ⇒【写真】ナイキの人気シリーズも、履かないとさらにもったいないことに 加水分解を引き起こすのは、ニューバランスやナイキといった超大手メーカーに多く、しかも高額であっても起きるのでたちが悪い。
突然靴が壊れる加水分解とは?
こちらは、5~6年ヘビーユーズして、まさに突然ソールが壊れたNB「574」。腐ったように崩れている箇所は、ポリウレタンゴム(以下、ウレタン)です。ウレタンは空気中の水分と化学反応を起こして、加水分解します。ウレタン本来の弾力性がなくなり、もろく硬化して崩れる現象のことです。日本の湿度であればウレタンの製造から3~4年でこの現象が始まります。重要なのは、加水分解は「靴の製造から」ではなく、「ウレタンの製造から」始まることです。一度も履かずに大事にしまっておいたスニーカーや、メルカリなどで「新古品」として買った靴でも、見た感じでは新品でも、足を入れた瞬間、あるいは手に取って持っただけでウソのように壊れることがあります。泥のようにネバネバと崩壊するケースと、砂のようにさらさらと崩れるパターンがありますが、修理が不可能なのはどちらも同じです。 これらは不良品ではありません。メーカーはスニーカーを「走るもの、試合や練習で酷使するもの」として設計・製造します。つまり、クッション性と摩耗に強いウレタンを採用することで、2年程度で履き倒すという設計思想で作られているのです。 ところが日本人特有の「もったいない」精神や、コレクションなどの理由で履かずに数年たつと、悲劇が起きます。対処法は、高価であっても「履いて歩くこと」。シンプルですが、一番効果的です。経験談なので断言しますが、履くことでウレタンが体重で圧縮され、中の水分が押し出されることで、放置しているよりも長持ちします。 こういったメーカー側の事情を理解したうえで、どんなモデルがウレタンを採用し、加水分解するのか具体的に挙げていきましょう。まずはナイキの「エアが見える」タイプ。典型は「エアマックス」や、「エアジョーダン」シリーズです。 これらのシリーズは例外もありますが、ちゃんと履かないと数年で加水分解します。エアマックスもエアジョーダンもモデルによっては高値がついていて、履くのがもったいなくなる気持ちはわかりますが、履かないとさらにもったいないことになります。ナイキは「エア」自体もウレタンのカプセルでできているので、これも加水分解します。透明だったエアが気づいたらだんだん曇ってきたと感じたら要注意。加水分解の一歩手前なので、遠出の旅行などには履かないようにしましょう。 ちなみに競技用やアウトドア系の最新モデルではウレタンはほとんど使われていません。「エア」はひと昔前の技術で、今の素材はウレタンよりはるかに軽く、弾力があって耐久性も高い素材が使われているので、加水分解はほぼ起こらないからです。