もはや異常者! お笑いとM-1を愛しすぎた「令和ロマン・高比良くるま」が自著では「希死念慮」の告白も(レビュー)
M-1グランプリ優勝後、これまでのチャンピオンとは違っていろんな番組に出まくって精神的にも肉体的にも消耗することなく、冷静に出演番組を厳選したり、「大学お笑い」「考察系芸人」的なイメージもあって、どうにもいけ好かなく思われがちな令和ロマン・高比良くるま。 これは、そんな彼がM-1について考察した本なんだが、とにかく面白いのが巻末に掲載された霜降り明星・粗品との対談と本文注釈。それを読む限り、彼がM-1とお笑いを愛しすぎた、ただの異常者だということがよくわかるはずなのである。
もともと「慶應でお笑いサークル入ってコンビ組んで1年目で(M-1)準決勝」進出という順調なスタートダッシュによって、彼は「この素晴らしい空間を維持するために、僕はここまで連れてこられたんだ」と確信。やがて「自分はM-1のために存在してる」と本気で思い込むようになり、コロナで劇場が止まると「使命を果たせなくなり、怠惰な人生に戻るのも恐ろしく、希死念慮が止まらなかった」りもする。この極端すぎる思い込みがちゃんと伝わらず、彼は必要以上にクレバーだと思われているだけなんだと思う。 M-1決勝に大量のネタを用意していった件にしても、「M-1のために何ができるだろう」と思った結果、「他の組とタイプが被らないことをやった方が、場が盛り上がるから」ということであり、粗品が、たとえば歌ネタをやろうとしていたとき、他のコンビが先に歌ネタをやった場合、歌ネタをぶつけて潰そうとは思わないのか? などと聞くと、「思わないです。そんなことしたらM-1が盛り上がらないじゃないですか!」と即答。「『ザ・ベストワン』で1分ネタのオファーが来たときも、断って代わりに『放送しなくていいんで、前説やらせてください』って言って前説で10分ネタ」やったのも、「その方が役に立つからです」との理由。歪んではいるけれどそのお笑い愛は本物! [レビュアー]吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター) 1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!! 道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(? )新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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