年末年始に読みたい「ビジネス力&教養力」爆上げの3冊!書評のプロが選んだオススメ本とは?
● 私たちの見ている「色」は 波長の違う電磁波にすぎない 冒頭の「はじめに」で池谷教授はこの本を、「一般に向けた脳の解説本という範疇を逸脱した、いわば問題作」と言っている。『夢を叶えるために脳はある』という書名から想像するであろう自己啓発的な内容では、決してない。ここでいう「夢」は、誰もが就寝中に見る夢のことだ。夢が虚構であるのと同じく、「現実」も脳が作り出す虚構だということだ。 「見る」ということの説明は衝撃的だ。例えば「色」は、本当の現実には存在しない。地球上にはさまざまな波長の光=電磁波が飛び交っており、それ自体に色はついていない。電磁波を人間の網膜がとらえて脳に送り、脳が赤、青、緑といった色に変換している。「音」もそうだ。ただの空気の振動を鼓膜がとらえ、脳が音に変える。 つまり、私たちが認識する、カラフルでにぎやかな現実は、脳が演出したバーチャルな世界でしかない。本当は無色無音で、さまざまな信号が飛び交っているだけの世界なのだという。 もちろん、池谷教授の説明が、絶対的に正しいという保証はない。だが、この説を受けて、現実をこれまでとは違うレンズで眺めてみると、いろいろな新しい発想が生まれてくるのではないだろうか。 現実が虚構ならば、例えばVRやARの空間を、現実と同レベルに近いものと考えることも可能だろう。また、各個人の脳は同じものではない。だから、見えている色はそれぞれ違うことになる。他者を「同じところもあるけれども、基本的には違う考えを持っている」と捉えることで、コミュニケーションのあり方も変わってくるのではないか。 まさに私たちの脳を刺激してくれる一冊だ。「思考の旅」を楽しんでいただきたい。
● 年越しの恒例行事の主役 「そば」の教養を身につける さて、大著に挑んだところで、最後は年越しに欠かせない食べ物を扱った教養書を紹介しよう。『そばの科学』だ。神戸学院大学名誉教授で農学博士の池田清和氏が編者となり、同氏を含む8人の研究者が、食文化、植物学、栄養学、医学などさまざまな側面からそばを掘り下げている。 そばというと「日本そば」を思い浮かべ、日本固有の伝統料理の一つと考える人が多いのではないか。だが、植物としてのそばを食材とした料理は世界各地にある。有名なのはフランスのブルターニュ地方発祥の「ガレット」だろう。ロシアにはガレットに似た「ブルヌイ」がある。そのほか、中央アジアには「そば粉パン」、北イタリアには「そばパスタ(ピッツォッケリ)」などがあるそうだ。 そんなそばについては、世界各地でさまざまな視点から研究が進められている。この本の執筆陣にも、スロベニア出身のイワン・クレフト氏を含む3人の海外研究者が加わっている。 ● もともとグルテンフリー ポリフェノール豊富な「そば」 「年越しそばをたっぷり食べたい!」と楽しみにしているそばファンにとって気になるであろう、そばの栄養についてもくわしく解説されている。 米やうどん、パンと同じく穀類由来の食品であるそばだけに、炭水化物が気になるかもしれない。ところがそばは、穀類の中では比較的タンパク質に富んだ食品とのことだ。 また、小麦に含まれるグルテンが健康に影響する人もおり、グルテンフリー食品なども出回っているが、そばの場合、グルテンを構成する2つのタンパク質、プロラミンとグルテリンのうち、プロラミンがほとんど含まれていない。 さらに、そば粉には、生活習慣病予防に効果があるとされるポリフェノールが豊富に含まれている。そば粉100gあたりのポリフェノール含有量(400mg)は赤ワインのコップ1杯分に相当するという。 前述のように、そばは日本固有の伝統食とは言い切れないが、「そば文化」という文脈では、日本には「そば打ち」というユニークなものがある。そば粉と水だけを使って繰り広げられる「技」は、芸術と言っても過言ではない。ちなみにそば打ちには、全麺協主催の「日本そば大学講座」や段位認定制度もある。 新しい年の目標として、そばのような、身近にあるさまざまなものを掘り下げ、知識を身につける習慣を身につけてみてはどうだろうか。2025年も良い読書ライフを! 情報工場 2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、まだ日本で出版されていない、欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約8万人のビジネスパーソンが利用中。 https://www.serendip.site
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