株価急騰の大林組 投資家が合格点出した「2026年度までにROE10%以上」
東京証券取引所が上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営」を求める中、株式市場では、取り組みを進める企業の株価が評価される傾向にある。2月1日に東証は、改革に取り組む企業の好例を取り上げる「事例集」を発表し、投資家が期待する取り組みのポイントを抑えた29社の対応状況を紹介した。これら企業の株価は、3月4日に日経平均株価が史上最高値を更新し、その後調整局面にある中でも、つられて下落することなく堅調に推移する傾向にある。 【関連画像】大林組の株価推移 そんな中、株価純資産倍率(PBR)1倍割れ銘柄の「常連」ともいわれてきたゼネコンの株価をめぐってサプライズが起こった。大手ゼネコンの一つである大林組が、3月4日に資本政策の見直しを発表。これに合わせる形で、配当や自社株買いといった株主還元策の機動的な実施や、24年3月期の配当予想の上方修正もアナウンスした。すると翌3月5日、これらを好感した買いが大林組の株価を1日で20%超押し上げたのだ。翌週以降も相場全体が崩れる中、大林組の株価はその後も高値を更新し、3月18日には一時年初来高値の1846円をつけるなど、大きく下がることなく推移している。 ゼネコンは、受注が景況感に左右される傾向が強いため、手元にキャッシュをため込む経営スタイルを取る企業が大半だ。加えて、施主と、施工を請け負うゼネコンの間とで株式を持ち合う慣習も根強く残っていた。 しかし資本コストを意識する経営を迫る「外圧」が政府や海外投資家から強まったことで、近年は施主側が政策保有株として持っていたゼネコン株を手放す動きも進んでいる。市場に出回る株式が増えたことで、ゼネコンの株価は一層割安になってしまった。こうした環境の変化も、大林組を動かしたと考えられる。 もっとも、企業にとって代表的な株価対策である増配や自社株買いが株価上昇に与える影響は一時的だ。なぜ大林組の株価は好調が続くのか。 理由として考えられるのが、資本政策の内容に具体性を持たせた点だ。例えば、自己資本利益率(ROE)目標について、大林組は3月4日に「中期的に8%以上」を「2026年度までに10%以上」と変更している。 ROEは、株主から集めた資本がどれくらい利益を生むのかを示す指標で、その企業が資本コストを意識した経営にどれだけ積極的なのか把握する際に使われる代表的なものだ。すべての費用や税金を差し引いた当期純利益を、自己資本で割って算出する。 ROEの引き上げには、大林組など大手ゼネコンが数年間取り組んできた受注戦略の見直しが寄与している。ゼネコンでは、21年ごろからの資材価格高騰の影響で、工期の長い大型案件の不採算性が取り沙汰されてきた。慢性的な人手不足もマイナスに作用し、大林組を含む複数の大手ゼネコンが手掛ける工事で施工不良が多発した。竹中工務店を除く大手4大ゼネコンが23年3月期に計上した工事の損失額は、過去10年で最大の1700億円に上った。